女性の癌による死亡を防ぐには運動よりも食事が大切なのかもしれない

はじめに

前回に引き続き、今回も死亡リスクに関する論文をあつかいます。

前回の記事では、健康の三大要素のうち、身体活動と睡眠に着目した論文を紹介しましたが、今回紹介する論文では、アメリカで行われた調査をもとに、食事と身体活動のどちらかが癌死亡率に強く関連しているのかを検証しています。

論文概要

出典

Chan, J. E., Caesar, M. A., Mann, A. K., Koh-Bell, A., Richardson, M. T., Johnson, C. R., Kapp, D. S., & Chan, J. K. (2022). The Role of Diet Compared to Physical Activity on Women’s Cancer Mortality: Results From the Third National Health and Nutrition Examination Survey. Frontiers in public health, 10, 853636. https://doi.org/10.3389/fpubh.2022.853636

方法
1998年から1994年のアメリカ国民栄養調査(NHANES Ⅲ)と2015年までのNational Death Index(NDI)のデータを利用
全参加者9399人のうち、データ欠損者や調査時に90歳以上だった者などを除いた3590人が最終的な分析対象
対象者は調査時に40歳以上

身体活動(運動)は、米国疾病対策センター(CDC)が作成した身体活動ガイドライン※をもとに評価
※中強度では週当たり150分以上、高強度では週当たり75分以上、またはこれらの組み合わせで同等量

食習慣は、アメリカ農務省が作成した健康食指数(HEI)で評価
HEIが80点を超えるとGood、51-80点がNeeds improvement、51点を下回ると、Poor
HEIはアメリカの模範食に近いほど、点数が高くなる

カプランマイヤー曲線を用いて、食習慣と身体活動と癌死亡率との関係を検証
年齢、人種、教育、収入レベル、婚姻状況、BMI、喫煙状況、慢性的な健康状態、主観的な健康状態、炎症マーカーを考慮した上でCox比例ハザードモデルによって癌死亡率を分析

結果
調査時点の年齢の中央値は57歳

■身体活動の状況
35%がガイドラインを満たしている
44%がガイドラインを満たしていないが、身体活動をしている
21%は身体活動をしていない

■食習慣の状況
22%がGood
69%がNeeds improvement
9%がPoor

■炎症マーカーと身体活動、食習慣との関係
食習慣はCRP、Fibrinogenと関係なし
身体活動は状況が良いほど、CRP、Fibrinogenの数値が低い

■カプランマイヤー曲線による分析
食習慣がGoodで身体活動が多いグループと比べると、食習慣がPoorで身体活動が低いグループは癌特異的生存率が下がる傾向(ただし、p = 0.09)
食習慣がPoorで身体活動が多いグループと比べると、食習慣がGoodで身体活動が少ないグループは癌特異的生存率が高い

■Cox比例ハザードモデルによる分析
収入(所得が多いと低い)、食習慣(Goodだと低い)、喫煙状況(喫煙者、過去の喫煙歴で高い)、婚姻状況(婚姻またはパートナーと同居で高い)が癌死亡率に関係

解説

アメリカで行われたこの研究は、女性の癌による死亡は身体活動(ただし、この論文は身体活動と運動を区別せずに表現している)よりも食習慣に強い影響を受けることを示唆しています。

特に「食習慣がPoorで身体活動が多いグループと比べると、食習慣がGoodで身体活動が少ないグループは癌特異的生存率が高い」という結果だけをみると、身体活動が不十分でも、食習慣を整えることを優先した方が良さそうです。
その一方で、食習慣に優れる人は、身体活動的にもアクティブなことが多いので、不活動な人はアクティブになった方が食習慣も整いやすい気もします。

また、一般に、独身者は老後に社会的孤立を招き、死亡リスクを高めると思われがちですが、独身の方が婚姻またはパートナーと同居に比べると、癌死亡率が低い結果も驚きです。

まとめ

女性の癌死亡リスクを減らすには、身体活動よりも食事