持久系運動の前あるいは最中に糖質とタンパク質を補給すると、糖質だけを補給するよりもリカバリーを促進するが、その運動のパフォーマンスは改善しない

2023年1月21日

はじめに

持久系運動中の糖質・タンパク質補給については、様々な観点から研究が進んでいます。
こういった研究は、摂取する物、摂取量(g)、摂取タイミング、運動強度、運動時間などなど、結果に影響し得る変数が多く存在するため、一つの研究で言い切れることはさほどなく、知見を積み重ねる必要があります。

今回は、持久系運動の前・中の糖質・タンパク質補給が糖質補給のみの場合と比べて、パフォーマンスや回復に好影響を与えるのかを検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Liang, Y., Chen, Y., Yang, F., Jensen, J., Gao, R., Yi, L., & Qiu, J. (2022). Effects of carbohydrate and protein supplement strategies on endurance capacity and muscle damage of endurance runners: A double blind, controlled crossover trial. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 19(1), 623–637. https://doi.org/10.1080/15502783.2022.2131460

方法
11名の活動的な男性ランナーを対象
ランダム化クロスオーバーダブルブラインドデザイン
3つのランニングテストを7日間のウォッシュアウト期間を設けて実施
事前テストとして、最大酸素摂取量などの測定も実施

■ランニングテストの方法
Phase1(60分@70%最大酸素摂取量のトレッドミル走)→Phase2(オールアウト形式@80%最大酸素摂取量)

■条件設定
・糖質+糖質条件(CHO+CHO)
ランニングテスト開始の30分前に0.4g/体重1kgのマルトデキストリンを摂取
Phase2の直前に0.4g/体重1kgのマルトデキストリンを摂取

・タンパク質+糖質条件(PRO+CHO)
ランニングテスト開始の30分前に0.4g/体重1kgのプロテインを摂取
Phase2の直前に0.4g/体重1kgのマルトデキストリンを摂取

・糖質+タンパク質条件(CHO+PRO)
ランニングテスト開始の30分前に0.4g/体重1kgのマルトデキストリンを摂取
Phase2の直前に0.4g/体重1kgのマルトデキストリンを摂取

全条件でPhase1では10分ごとに1.2g/体重1kgの糖質を摂取
全ての補給は、20%濃度で液体によって摂取
(糖質とタンパク質で同じ味になるように人工甘味料を利用)

食事は前日、当日、翌日をコントロール

■測定項目
血液:ALT、AST、CK、ミオグロビン(MB)、インスリン、テストステロン、コルチゾール
尿:3MH
筋痛:VAS

結果
■持久系パフォーマンス
・80%最大酸素摂取量の耐久時間
条件間で有意差なし
(CHO+CHO:432秒、PRO+CHO:463秒、CHO+PRO:461秒、平均値)

■血液・尿指標
・CK
運動後は全条件でベースラインより高値
24時間後の数値はPRO+CHOがCHO+CHOより低値

・MB
運動後は全条件でベースラインより高値
24時間後はPRO+CHOとCHO+PROがCHO+CHOより低値

ALT・AST
運動後は全条件でベースラインより高値、ただしPRO+CHOはCHO+CHOより低値
24時間後はPRO+CHOはCHO+CHOより低値

3-MH(3-メチル ヒスチジン)
24時間後は全条件でベースラインより高値、ただしPRO+CHOとCHO+OROはCHO+CHOより低値

筋痛
全条件でベースラインより増加、ただし24時間後はPRO+CHOとCHO+PROはCHO+CHOより低値

解説

この論文は、持久系運動の前や最中に糖質のみを摂取するより、糖質とタンパク質を摂取した方が1日後の肝臓や筋肉に関するダメージマーカーや筋肉痛の程度が軽かったことを示しています。

論文の著者らは、タンパク質も摂取した場合にリカバリーが促進する理由について、血中のアミノ酸濃度の上昇を挙げています。
タンパク質補給によってアミノ酸濃度が高い分、筋プロテインの分解が抑制された可能性があるということです。

この実験のポイントは、条件間で摂取エネルギーが均等なこと、70%最大酸素摂取量での運動中に糖質をとり続けていることです。
この2点が違う場合には異なった結果になった可能性があります。
そしてこういった論文を拡大解釈しないためには、運動生理学・運動栄養学的な知識が不可欠です。

運動パフォーマンス自体には変化がありませんでした。
ただし、この論文は、翌日の運動パフォーマンスを評価していません。
血液マーカーからみたリカバリーが促進したとしても、運動パフォーマンスには影響を及ぼさない場合も多いので、ここまで検証してれば、この論文の価値もより高まったと思われます。

まとめ

持久系運動の前や最中に糖質とタンパク質をとると、糖質のみをとった場合に比べると筋ダメージは軽減する可能性