高齢者の全死亡率は筋肉量よりも筋力が影響する

2021年6月18日

はじめに

サルコペニアとは加齢により筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態のことをいいます。
サルコペニアの原因は、加齢や身体活動量の低下、栄養不足の他、様々な疾患の合併が挙げられます。
また、サルコペニアに近い概念として、フレイルという用語もあります。
フレイルとは加齢に伴い身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態のことです。
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サルコペニアやフレイルになってしまうと、生活の質が低下し要介護へ移行しやすくなるため、加齢に伴う筋肉量・筋力の低下を抑制することは大切です。
また、筋肉量あるいは筋力が少ない人の死亡リスクが高いことも分かってきています。

一般に筋肉量と筋力との間には相関関係がありますが、両者の傾向は全く一緒というわけではありません
つまり、筋肉量が平均より低い水準の人であっても、筋力は平均以上であることは起こりえます。

今回はアメリカで行われた大規模な調査をもとに、低筋肉量・低筋力と全死亡率との関係を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Li, R., Xia, J., Zhang, X. I., Gathirua-Mwangi, W. G., Guo, J., Li, Y., McKenzie, S., & Song, Y. (2018). Associations of Muscle Mass and Strength with All-Cause Mortality among US Older Adults. Medicine and science in sports and exercise, 50(3), 458–467. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000001448

方法
1999年から2002年にかけて50歳以上の4449人を対象に測定・調査を実施

調査・測定項目は下記のとおり
・人口統計学情報および併存疾患の有無
→年齢、性別、人種、BMI、喫煙の有無、飲酒習慣、余暇活動における身体活動(LTPA)、座りがちな時間、併存疾患(高血圧、心血管疾患)

・筋肉量
→四肢の筋肉量の絶対値・相対値(BMIを考慮)

・筋力
→等速性膝関節伸展最大筋力

・メタボリックシンドローム
→ウエスト周径囲、トリグリセリド、HDLコレステロール、血圧、空腹時血糖値の各基準値のうち3つ以上満たしている場合、メタボリックシンドロームと判定

2011年時点での死亡者リストから対象者の生存状況を確認

結果
・低筋肉量と判定された人は23.1%、低筋力と判定された人は19.4%(男女別の基準値を設け判定)

・低筋力の人は筋肉量が低いか否かに関わらず全死亡率が高い
・低筋肉量の人は筋肉量が低い場合でのみ全死亡率が高い
→通常筋肉量・通常筋力:1.0
→通常筋肉量・低筋力:2.03(1.27-3.24)
→低筋肉量・低筋力:2.66(1.53-4.61)
→低筋肉量・通常筋力:0.85(0.44-1.66)
※数値はオッズ比(95%信頼区間)

・メタボリックシンドローム、座りがちな時間、LTPAの状況に関わらず、低筋力の人の全死亡率が高い

解説

この論文は、アメリカの高齢者を対象とした場合、膝関節伸展筋力が筋肉量、メタボリックシンドローム、座りがちな時間の状況に関係なく、死亡率と関係していることを示しています。
つまり、膝関節伸展筋力が低い人は、その他の指標の良し悪しに関わらず、約10年後に死亡していた割合が高かったということです。

膝関節伸展筋力は主に大腿四頭筋の発揮筋力を評価しています。
大腿四頭筋は姿勢維持にも関わる抗重力筋であり、歩行スピードを保つためや転倒防止のためにも重要な筋肉です。
かねてから大腿四頭筋は高齢者の日常生活機能や生活の質と深く関わると言われてきましたが、この論文はその主張をさらに補強するデータです。

また筋肉量よりも筋力が全死亡率と密接に関係していた結果は、見た目よりも実際の機能の方が生きるためには大事ということを示しています。

まとめ

高齢者の全死亡率は筋肉量よりも筋力が強く関係する