全身持久力は新型コロナウイルスの死亡率と関係する

2021年6月18日

はじめに

新型コロナウイルス(COVID-19)は、世界中の国々に未だに多大な影響を与えています。

COVID-19の重症化のリスクファクターとしては、年齢、慢性呼吸器疾患、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満が知られています。

また、イランで行われた研究によると、定期的なスポーツ参加者は、年齢・性別の交絡因子に関係なく、COVID-19感染後に重症化する確率が低かったことも示されています。

一般的にスポーツ活動や身体活動量が多い人は、最大酸素摂取量といった全身持久力に優れています
全身持久力は全身に酸素を供給する能力を示しているため、COVDI-19による呼吸・循環不全に陥りやすさと関係する可能性もあります。

今回はイギリスのコホート研究のデータをもとに全身持久力とCOVID-19の陽性率、死亡率との関連を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Christensen, R., Arneja, J., St Cyr, K., Sturrock, S. L., & Brooks, J. D. (2021). The association of estimated cardiorespiratory fitness with COVID-19 incidence and mortality: A cohort study. PloS one, 16(5), e0250508. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0250508

方法
英国バイオバンク(UKB)リソースを利用したコホートデータをもとにした研究
UKBは2006年から2009年にかけて40歳から69歳の約50万人を対象とした大規模調査
UKBは2009年にベースラインの測定として心臓血管系フィットネス(Cardiorespiratory fitness: CRF)を追加
その他のベースラインの評価項目は人口統計学的情報(教育歴、民族性など)、病歴、身長、体重、CRDなど

2020年3月中旬にUKBとCOVID-19のテストデータとの結果をリンク
2020年7月26日の時点でUKBコホートのうち13502人対して合計20554件のCOVDI-19の診断テストが実施
本研究のサンプルはCRFのデータがあり、その他のデータの欠損がない2690人

CRFの評価方法:
自転車エルゴメーターを用いた最大下負荷試験
心拍数と運動強度(W)との関係をもとに推定最大酸素摂取量を算出
CRFは性・年代(10歳毎)別にパーセンタイル別に下記のように評価
Low:パーセンタイル20%未満
Moderate: パーセンタイル20-80%
High: パーセンタイル80%以上

アウトカム:
2020年3月16日から7月26日に実施されたPCR検査で陽性反応を示した場合をCOVID-19陽性
国民保険データをもとに死因の情報を把握し、ICD-10コードがU07.1(コロナウイルス感染症2019、ウイルスが同定されたもの)あるいはU0.72(コロナウイルス感染症2019、ウイルスが同定されていないもの)をCOVD-19によって死亡したと判断

結果
・分析対象者のうち約13%(346名)がCOVID-19陽性診断

・COVID-19陽性診断を受けた者のうち、17%(59名)が死亡

・CRFとCOVID-19の陽性に関連なし

・死亡のリスクはCRFがLowに比べてModerate、Highで低い
Lowを1.0としたときの調整済みリスク比(Adjusted risk Ratios)
Moderate:0.43(95%信頼区間: 0.25-0.75)
High:0.37(95%信頼区間:0.16-0.85)
※年齢、性別、BMI、アルコールの摂取頻度の影響を調整済み

解説

この論文は、心臓血管系フィットネス(全身持久力)が低い集団(同性・同年代のパーセンタイル20%未満)に比べると、中程度の集団(同性・同年代のパーセンタイル20-80%)では57%、高い集団(パーセンタイル80%以上)では63%、COVID-19による死亡のリスクが低かったことを示しています

コホート研究のため因果関係は言及できないことや、CRFの評価から約10年経過しているためカテゴリー分布と実際の全身持久力とにズレが生じている可能性が高い点など、研究の限界があることを認識する必要があります。

それでも、コロナ過で多くの人の身体活動量が低下している昨今、全身持久力を高めることの意義を伝えるためには非常に貴重なデータには違いありません。

一方、CRFはCOVID-19の陽性については関連が認められませんでした。
この結果について論文の著者らは、優れたCRFは自然免疫によって感染症のリスクを減弱させると考えられるものの、CRFを高める活動(例えば集団での運動)に参加すると、ウイルスの暴露および拡散を増加させる可能性があるため、このような結果になった可能性があると考察しています。

まとめ

全身持久力はCOVID-19による死亡リスクと関係する