練習前にSNSを利用するとトレーニング効果が減弱する

はじめに

前回、競泳選手を対象とした論文をもとに競技直前にSNSを利用するとスポーツパフォーマンスが低下する可能性を解説しました。

この論文では、競技前にスマートフォンでSNSを30分間利用することで、メンタル疲労が起こり(ストループテストの反応時間の遅延、VASの増加)、パフォーマンス(100m・200m自由形)が低下しています。

今回は同じ研究グループが実施した違う論文をもとに、SNS利用の慢性的な影響について解説します。

今回紹介する論文では、競技力の高い女性競泳選手を対象として、日々の練習前にスマートフォンでSNSを利用することが競泳パフォーマンス、抑制機能(認知機能の一つ)、持久力、垂直跳びパフォーマンスに及ぼす影響を検証しています。

 

論文概要

出典

Fortes, L. S., Nakamura, F. Y., Lima-Junior, D., Ferreira, M., & Fonseca, F. S. (2020). Does Social Media Use on Smartphones Influence Endurance, Power, and Swimming Performance in High-Level Swimmers?. Research quarterly for exercise and sport, 1–10. Advance online publication.

方法
25名の女性競泳選手をランダムに下記の2群に分類
(途中離脱によって最終的なデータ分析対象者は22名)
・スマートフォン群(11名、普段のスマートフォンでのSNS利用時間:22.7時間、平均値)
・コントロール群(11名、普段のスマートフォンでのSNS利用時間:23.6時間)

実験期間は10週間(プレ測定:1週間、トレーニング期間:8週間、ポスト測定:1週間)

トレーニング期間の内容は下記のとおり
合計40のトレーニングセッションが計画
各トレーニングセッション前の30分の過ごし方を下記のように規定
スマートフォン群:
スマートフォンでSNSアプリ(例:WhatsApp, Facebook, Instagram)を30分利用

コントロール群:
84インチのスクリーンでオリンピックゲームに関するビデオを30分閲覧(40の異なるドキュメンタリー)

プレ・ポスト測定の評価項目は下記のとおり
・垂直跳び(CMJ)

・ストループテスト
→抑制機能の評価

・主観的メンタル疲労度(VAS)
→メンタル疲労の評価

・3分間オールアウトテザードスイム(牽引泳)
→持久力の指標として疲労指数、クリティカルフォース、アエロビックインパルスを評価

・競泳パフォーマンス
→50m・100m・400m自由形のタイムを評価

結果
・競泳パフォーマンス
→50mのタイムは両群ともに変化なし
→100mのタイムはトレーニング期間後にコントロール群のみ減少(群×時間の交互作用あり)
→400mのタイムはトレーニング期間後にコントロール群のみ減少(群×時間の交互作用あり)

・CMJ
→両群ともにトレーニング期間後にCMJの跳躍高が増加

・3分間オールアウトテザードスイム
→疲労指数、クリティカルフォース、アエロビックインパルスともにコントロール群のみ改善(群×時間の交互作用あり)

・ストループテスト
→正確性は両群ともに変化なし
→反応時間はコントロール群のみトレーニング期間後に減少(群×時間の交互作用あり)

・VAS
→主観的メンタル疲労度はスマーフォン群のみトレーニング期間後に増加(群×時間の交互作用あり)

・内的トレーニング負荷
→8週間を通した内的トレーニング負荷(トレーニング時間×主観的運動強度)はスマーフォン群がコントロール群より高値

解説

この論文は、日頃からトレーニングを積んでいる競泳選手を2群に分けて、8週間のトレーニング期間中、練習前にスマートフォンでSNSを利用することの影響を検証しました。

その結果、毎回の練習前にスマートフォンでSNSを30分間利用したグループは、練習前に30分間のオリンピックドキュメンタリーを鑑賞したグループで起こったトレーニング効果(100m・400m自由形のタイム、3分間牽引泳の評価指標、ストループテストの反応時間)が得られませんでした
この結果は、練習前のSNS利用は持久系アスリートのトレーニングの適応を妨げる可能性を示しています

前回紹介した論文と合わせて考えると、スプリント競技(約30秒未満)よりも運動時間が長い種目ではSNS利用による影響を受けやすいと考えられます。
この原因については、30秒以上の競技ではアスリートは主観的運動強度(RPE)をもとにペース戦略を決めますが、SNS利用によってメンタル疲労が高まった状態ではRPEが高くなっていた可能性が挙げられます。
実際、過去の論文によって実験的にメンタル疲労を誘発した条件ではRPEが高まり、持久性パフォーマンスが悪化することも示されています。

また、トレーニング期間を通した内的トレーニング負荷はスマーフォン群で高値を示していたことから、SNSを利用したグループでは毎回の練習を「きつく」感じていました。
この論文では泳速度や心拍数といった客観的なトレーニング負荷を定量していないため推測の域を脱しませんが、SNSを利用したグループでは毎回のトレーニングをメンタル疲労が高い状態で実施していたために、トレーニングの質が下がっていた可能性も考えられます。
つまり、毎回のトレーニングの質が低いことが積み重なり、長期的なトレーニング効果も減弱した可能性もあります。

ところで、前回と今回した論文ではコントロール群はオリンピックに関するビデオを鑑賞しました。
アスリートは競技に関係するビデオをみることで、内発的動機が高まる可能性があります。
したがってこの研究グループの一連の結果は、SNS利用によってパフォーマンスやトレーニングの効果に悪影響が生じたというよりも、競技に関係するビデオを観たことによって内発的動機が高まり、効果が高まったという解釈もできます。
こういった論文では、コントロール群でどういった介入がされていたかも正確に把握することが大切です。

SNSが一般化した現代社会においてアスリートがSNSを全く利用しないことは現実的な対策とは言えません。
しかし、SNS利用の頻度、時間、タイミングによってはスポーツパフォーマンスに負の影響を与えるため、SNSの利用を自律的にコントロールできることは、現代アスリートにとって大切な能力になると言えます。

 

まとめ

練習前にSNSを利用するとトレーニング効果が妨げられる可能性