東京2020の男子マラソンランナーの接地タイプとケイデンス

2023年9月12日

はじめに

ランニングフォームの中でも、接地タイプやケイデンス(ピッチ)はイメージしやすいこともあり、ランナーの走力を問わず、話題にあがる機会が多い指標です。

今回紹介する論文では、2021年に開催された東京五輪(東京2020)の男子マラソンの出場者を対象として、レース中の接地タイプとケイデンスを報告しています。

論文概要

出典

Gamez-Paya, J., Aladro-Gonzalvo, A. R., Marcos, D. G. D., Villarón-Casales, C., & Amo, J. L. L. D. (2023). Footstrike Pattern and Cadence of the Marathon Athletes at the Tokyo 2020 Olympic Games. Applied Sciences, 13(11), 6620. https://doi.org/10.3390/app13116620

方法
東京2020の男子マラソンのコンディション
気温:26-28度、湿度:72-80%

ケイデンスは上位8名の入賞選手を対象、10-20km、20-30km、30-40kmの3地点で放送映像をもとに判断

接地パターンは51名の選手を対象、5km地点映像をもとに判断
映像が左側から撮影されたことと、選手間の距離が近かったため、3名の右足のデータが欠損

接地パターンの分類は次の3種類
■後足部接地(Rearfoot Strike: RFS)
踵から先に地面に接し背屈した状態
■中足部接地(Midfoot strike: MFS)
解剖学的位置で地面と平行で接地した状態
■前足部接地(Forefoot strike: FFS)
底屈状態で前足部から地面に接した状態

ケイデンスと接地タイプの判断は、ランニングのバイオメカニクス指標の分析経験を有する2名の陸上競技コーチ実施

結果
■評価者間の信頼性(級内相関係数)
接地タイプ:0.898-0.915
ケイデンス:0.973-0.983

■ケイデンス(上位8名)
レース全体を通した平均(標準偏差)は185.5(5.1)spm
10-20kmが185.2(4.9)、20-30kmが186.2(4.5)、30-40kmが185.1(5.8)
→前半、中盤、終盤で有意な変化なし
メダリスト3名に限ってもレースを通してほぼ一定

■接地タイプ
左足でみると、RFSが31.4%、MFSが58.8%、FFSが9.8%
上位8名でみると、2名がRFS、3名がMFS、2名がFFS、1名が左足RFS・右足MFS(左右非対称)

解説

国際大会のレース中の接地タイプとケイデンスを報告した興味深い論文です。

接地タイプについては、メディアや現場では色々なことが言われていますが、実際にはこの論文の結果が示しているとおり、「ランナーによる」に尽きる気がします。
もう少し詳しく言うと、確かに他の研究に比べると、RFSの比率が少ない傾向はあるものの、「エリートランナーはフォアフット」といった簡略化した表現は明らかに不適切です。
ちなみに、論文の著者らは、傷害予防やランニングエコノミーの観点などをもとに、長距離のロード競技においては、MFSが最適だと言及していました。

ケーデンスは、入賞者(上位8名)あるいはメダリスト(上位3位)を分析した結果、ほとんど一定でした。
因みに、この大会で優勝したキプチョゲ選手は、後半ハーフの方が2分早く走っており、ケーデンスはほとんど変わっていなかった(10-20km:186spm、20-30km:185spm、30-40km:187spm)ことから、ストライドを広げることでペースアップを図っていたと言えます。
ただし、今回のデータはレースを通して連続的に計測されたものではない点には注意が必要です。
ウェアラブルデバイスを用いて連続的に計測された場合、違った傾向が得られる可能性はありそうです。

この論文は、ワールドクラスのマラソンランナーたちの大部分がMFSでレースを通してケーデンスが一定なことを示していますが、これをもとにどうやってトレーニング組み立てることが良いのか、もっと言うと、ランニングフォームをいじることが良いのか悪いのかなどは教えてくれません。

まとめ

東京2020の男子マラソンで入賞したランナーのケーデンスはおよそ185ステップ