ランナーが筋トレをした際のランニングエコノミーとバイオメカニクスの変化
はじめに
数多くの研究によって、長距離ランナーがストレングストレーニングを行うことで、ランニングエコノミーが向上することを示しています。
しかし、この際にランニングフォームに密に関係するバイオメカニクス指標が変化するのかは、あまり分かっていません。
以前に紹介した論文では、10週間のストレングストレーニング後のバイオメカニクス指標にはほとんど変化が認められていませんでした。
しかし、この論文では、そもそもストレングストレーニングを取り入れても、ランニングエコノミーが向上していませんでした。
今回紹介する論文では、市民ランナーを対象としてプライオメトリックトレーニングと動的な自体重トレーニングという二つのグループにわけた上で、ストレングストレーニングがランニングエコノミーとバイオメカニクス指標に及ぼす影響を検証しています。
論文概要
出典
Patoz, A., Lussiana, T., Breine, B., Mourot, L., Gindre, C., & Hébert-Losier, K. (2023). Concurrent endurance training with either plyometric or dynamic body-weight training both improve running economy with minimal or no changes in running biomechanics. Sports biomechanics, 1–18. Advance online publication. https://doi.org/10.1080/14763141.2023.2200403
方法
37名の男性市民ランナーを下記の2群にランダムに分類
コンカレント・ストレングス・エンデュランストレーニング-プライオメトリック(CSET-PLY)
コンカレント・ストレングス・エンデュランストレーニング-動的自体重(CSET-DYN)トレーニング介入は8週間
トレーニング介入の前後に最大下ランニングテスト、最大ランニングテストを実施ランニングトレーニングは両群ともに同等の負荷で実施
ストレングストレーニングは下記の通り
両群ともに6種目で構成
CSET-PLYはプライオメトリックランジ、プライオメトリックラテラルステップアップ、ダウンヒルランニングなど
CSET-DYNはスクワット、ランジ、アップヒルランニングなど
両群ともにサーキット形式で実施、セット数や運動-休息比などの負荷は徐々に増加
トレーニング時間は両群で同等
トレーニングは最大努力で出来るだけ多くの回数を繰り返すように実施結果
■ランニングエコノミー
(呼吸交換比が1.0に達したスピードよりも時速1km低い強度で評価)群×時間の交互作用なし、両群ともに向上
■バイオメカニクス指標
(接地時間、滞空時間、ステップ頻度、Duty Factor、レッグスティフネス)5つの指標ともに群×時間の交互作用なし
滞空時間は両群ともに減少先行研究をもとにランニングエコノミーの向上が2.6%より大きかった者をHigh responders、そうでない者をLow respondersに分けて分析
CSET-PLY のHigh respondersは6名、Low respondersは8名
CSET-DYNのHigh respondersは7名、Low Respondersは10名CSET-DYNのHigh respondersはステップ頻度が増加(効果量:大)
CSET-PLYのLow respondersはステップ頻度の増加と接地時間の短縮が観察(効果量:中)
解説
この論文は、ランナーがプライオメトリックもしくは自体重の動的なストレングストレーニングを実施することで、ランニングエコノミーの向上が期待したものの、バイオメカニクス指標(接地時間、滞空時間、ステップ頻度、Duty Factor、レッグスティフネス)にはほとんど変化がないことを示しています。
また、ランニングエコノミーに顕著な向上が起きたランナーと起きなかったランナーを対象として、バイオメカニクス指標を比較しても、その傾向はさほど変わりませんでした。
ランニングエコノミー向上とランニングフォームの変化を関連づける主張を耳にすることは多いですが、その主張は正しくないことの方が多いなと改めて思える論文です。
もちろん、もっと細かなバイオメカニクス指標には関係が認められる可能性はあるものの、一般化、普遍化できるような一様な変化っていうのは基本的には起こらない気がします。
まとめ
ランニングエコノミーの向上はバイオメカニクス指標の変化なしに起こる