睡眠前のプロテイン摂取は持久系サイクリストの合宿中の回復促進に繋がらない

2023年4月21日

はじめに

アスリートやスポーツ愛好家の中には、就寝前にプロテインサプリメントを摂取する者がいます。
その目的は、筋力向上や筋肥大促進、筋ダメージからの回復促進が挙げられます。

ただし、プロテイン摂取の効果を検討した研究の中には、利益を認めていないものもあります。
また、糖質の摂取量を増やすことによって摂取エネルギーを揃えた条件と比較した場合には、有意差がないとした研究もあります。

今回紹介する論文では、エリートサイクリストを対象として、就寝前のプロテイン摂取、夕方のプロテイン摂取、就寝前の糖質摂取という3条件を設けた上で、6日間の高負荷合宿中の回復に及ぼす影響を検証しています。

論文概要

出典

Valenzuela, P. L., Alejo, L. B., Montalvo-Pérez, A., Ojanguren, D., Górriz, M., Pagola, I., Ozcoidi, L. M., Lucia, A., & Barranco-Gil, D. (2023). Pre-sleep protein supplementation in professional cyclists during a training camp: a three-arm randomized controlled trial. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 20(1), 2166366. https://doi.org/10.1080/15502783.2023.2166366

方法
全国・国際レベルのU23サイクリスト24名を対象

ダブルブラインド3アームランダム化比較試験
下記3群に割り当て
・就寝前プロテイン群
夕食2時間後、就寝30分前に40gのカゼインプロテインを摂取
・午後プロテイン群
午後のトレーニング直後のリカバリー食から2時間後で夕食の2時間前に40gのカゼインプロテインを摂取
・就寝前糖質群(プラセボ)
夕食2時間後にプロテイン群と同じエネルギーの糖質(マルトデキストリン)を摂取
6日間のトレーニングキャンプ時に実験を実施

測定項目は下記のとおり
・トレーニング負荷
Training stress score

・栄養評価
食事記録法(平日、週末の計2日間)

・回復指標
Hooper’s Index、垂直跳び、Recovery-Stress Questionnaire for Athletes(RESTQ-Sport)

・身体組成
インピーダンス法

・パフォーマンス
キャンプの前後に1分、5分20分のタイムトライアルを実施
その結果からクリティカルパワーも算出

結果
・トレーニング負荷
実験期間のキャンプ前に比べ、キャンプ期間中に著しく増加(659vs1207、週当たりの数値)

・栄養調査の結果
総エネルギー、糖質、脂質の摂取量は群間差なし
タンパク質摂取量は就寝前プロテイン群、午後プロテイン群で高い
(就寝前プロテイン群:3.57g/kg、午後プロテイン群:3.26g/kg、就寝前糖質群:2.59g/kg)

・Hooper index
群×時間の交互作用なし

・垂直跳び
群×時間の交互作用なし

・RESTQ-Sport
群×時間の交互作用なし

・身体組成
体重、除脂肪量、筋肉量に群×時間の交互作用があったものの、事後検定では有意差なし

・パフォーマンス
5分、クリティカルパワーは時間の有意差があり、キャンプ後に低下傾向
ただし、群×時間の交互作用なし

解説

この論文は、就寝前あるいは午後トレーニングと夕食の間に40gのカゼインプロテインを摂取しても、同じエネルギーを含む糖質を就寝前に摂取した場合と比べた場合、主観的指標(Hooper index、RESTQ-Sport)、身体組成、垂直跳び、サイクリングパフォーマンスからみた回復度に利益をもたらしませんでした。

この論文でも挙げられていますが、メタ分析によって、タンパク質摂取によるトレーニングの適応促進効果は、1.6g/kgが上限だとされています。
就寝前糖質群であっても、2.59g/kgのタンパク質を摂取していたことから、必要十分量に達していたと考えられます。

何となく、就寝前にタンパク質を摂取すれば、トレーニングからの回復に有益だと思いがちですが、1日を通したエネルギー摂取量やタンパク質が必要量に達しているのかといった要素の方が大切に違いありません。

まとめ

寝る前にプロテインを飲んでも、それまでにタンパク質とエネルギーを十分摂取していれば回復がさらに促進されるわけではない