試合前にSNSを利用するとスポーツパフォーマンスが低下するかもしれない

はじめに

以前、SNSの頻繫な利用がメンタルヘルスに及ぼす影響に関する論文を紹介しました。

今回はSNSとスポーツパフォーマンスとの関連についてです。

SNSは一般人のみならず、トップアスリートの多くも利用しています。
アスリートによって使うSNSの種類や利用頻度などは様々ですが、SNSの登場によって一般人はトップアスリートを身近に感じられるようになったことは間違いないでしょう。

一方、近年では長時間にわたるスマートフォンの利用はメンタル疲労を誘発し、スポーツパフォーマンスに負の影響を与える可能性も指摘されています。

今回は競泳選手を対象としてレース前のSNS利用が競泳パフォーマンスに及ぼす影響を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Fortes, L. S., Lima-Júnior, D., Gantois, P., Nasicmento-Júnior, J., & Fonseca, F. S. (2021). Smartphone Use Among High Level Swimmers Is Associated With Mental Fatigue and Slower 100- and 200- but Not 50-Meter Freestyle Racing. Perceptual and motor skills, 128(1), 390–408. https://doi.org/10.1177/0031512520952915

方法
ブラジルの2つのスイミングクラブに所属する25名の国際レベルの競泳選手(男性14名、女性11名)を対象

はじめにベースラインを3回実施
ベースライン測定では50m、100m、200mの自由形を実施し、その後に心拍変動(HRV)、垂直跳び(CMJ)、ストループテスト、主観的メンタル疲労度(VAS)を評価

ベースライン測定後、6条件のトライアルをランダムに実施
(各トライアル間に1週間のウォッシュアウト期間を設定)

6条件は下記のとおり(全て自由形)
メンタル疲労50m条件
メンタル疲労100m条件
メンタル疲労200m条件
コントロール50m条件
コントロール100m条件
コントロール200m条件

各トライアルは下記の順序で実施
1)CMJ・VAS・HRV・ストループテストの測定
2)メンタル疲労負荷orコントロール負荷
3)VAS・ストループテストの測定
4)ウォーミングアップ
5)競泳(50m or 100m or 200m)
6) CMJ・HRVの測定(競泳30分後)

メンタル疲労条件:
スマートフォンでSNSアプリ(例:WhatsApp, Facebook, Instagram)を30分利用

コントロール条件:
84インチのスクリーンでオリンピックゲームに関するコーチングビデオを30分閲覧

※両条件ともに会話は禁止

結果
・ストループテスト
→50m、100m、200mともに反応時間がメンタル疲労条件で長くなった(条件×タイミングの交互作用あり)

・VAS
→50m、100m、200mともに主観的メンタル疲労度がメンタル疲労条件で高かった(条件×タイミングの交互作用あり)

・競泳パフォーマンス
→50mのタイムは差がなかった
→100mのタイムはメンタル疲労条件で遅くなった
→200mのタイムはメンタル疲労条件で遅くなった

・CMJ
→全ての条件で競泳後に低下

・HRV
→全ての条件で競泳後に低下

解説

この論文は、競技前に30分間スマートフォンでSNSを利用することで、メンタル疲労が起こり(ストループテストの反応時間の遅延、VASの増加)、パフォーマンス(100m・200m自由形)が低下したことを示しています。

論文の著者らはスマートフォンでのSNS利用によるメンタル疲労の原因として、前頭前野のシータ波の増加、前帯状皮質のアデノシン濃度の増加、脳のドーパミン神経伝達受容体の阻害、脳グリコーゼの減少および脳酸素化の減弱を可能性として挙げています。

50m自由形のみメンタル疲労条件とコントロール条件でタイムに差がありませんでした。
つまり、SNSを利用してもパフォーマンスは低下しませんでした。
このことは、競技前のSNSによるパフォーマンスの阻害は競技の運動時間・運動強度によって異なることを示唆しています。
ただし、この論文で最も運動時間が長い200m自由形であっても約2分程度と短時間である上、運動強度も最大酸素摂取量以上の高強度に相当します。
したがって、運動強度や運動時間による違いを検証するさらなる論文が待たれます。

またこの論文からは陸上競技や自転車競技といった他の持久系スポーツにも同様の現象が起こるのか、サッカーやバスケットボールといった球技スポーツのパフォーマンスにSNSが及ぼす影響といった点も主張できません。

まとめ

競技前にSNSを利用するとパフォーマンスが低下する可能性