持久系スポーツ愛好家の筋トレによる干渉効果

はじめに

前回、週およそ10時間の持久系トレーニングを実施しているサイクリストを対象として、ストレングストレーニングを行わせたところ、筋トレだけを実施した人たちに比べると、筋横断面積、動的筋力、ジャンプ能力の増加・改善が軽減したり、ピークRFDの増加が認められなかったりしたことを報告した論文を解説しました。

今回は、週およそ5時間の持久系トレーニングを実施している持久系スポーツ愛好家と直前までトレーニングをしていなかった人たちを対象として、ストレングストレーニングを実施させる介入実験を実施した論文を紹介します。

論文概要

出典

Vikmoen, O., Raastad, T., Ellefsen, S., & Rønnestad, B. R. (2020). Adaptations to strength training differ between endurance-trained and untrained women. European journal of applied physiology, 120(7), 1541–1549. https://doi.org/10.1007/s00421-020-04381-x

方法
下記2群を対象
14名の女性持久系アスリート(実験群)
10名の非鍛錬者(対照群)
最終的なデータ分析対象者はそれぞれ11名と10名

実験期間は11週
実験群は平均5.1時間/週の持久系トレーニング(主にサイクリング、ランニング)を実施
対照群は最大でも週1回の持久系トレーニングのみ

■ストレングストレーニング
両群ともに下記のストレングストレーニングを実施
頻度:2回/週
種目:ハーフスクワット、ワンレッグレッグプレス、ワンレッグヒップフレクション、アンクルプランターフレクション
強度:4-10RM
セット数:3
毎回のセッションのウォームアップ時に15gのプロテインと22gの糖質を摂取

■測定・評価
介入期間の前後に実施
・下肢の除脂肪量(LegLM)・・・二重エネルギーX線吸収法で計測
・片脚レッグプレスの1RM
・スクワットジャンプ、カウンタームーブメントジャンプの跳躍高
・膝関節伸展の等尺性MVC、240度/秒の等速性筋力

6週目に4日間の栄養調査を実施

 

結果
体重
両群ともに変わらない

LegLM
両群ともに増加

等尺性MVC
両群ともに増加

1RM
両群ともに増加

スクワットジャンプの跳躍高
両群ともに増加したものの、対照群の方が顕著

カウンタームーブメントジャンプ
両群ともに増加(統計学的有意差はないものの、対照群の方が顕著な傾向)

240度/秒の等速性筋力
両群ともに増加したものの、対照群の方が顕著

エネルギー摂取量、三大栄養素の摂取量
タンパク質の摂取量は実験群で多い

解説

この論文は、週当たりおよそ5時間の持久系トレーニングを継続している持久系アスリートと、実験開始時点で習慣的な運動をしていなかった人たちを対象として、11週間の筋力トレーニングを行わせたところ、脚の筋肉量と低収縮速度での力の発揮能力が同程度に増加したことを報告しています。
その一方で、高収縮速度での力の発揮能力は、持久系トレーニングをしていない人たちでより増加していました。

論文の著者らは、研究間の筋肉量と低収縮速度での力の発揮能力に関する干渉効果(持久系トレーニングに加えて筋力トレーニングを同時並行して行うことで、筋肥大や神経筋パフォーマンスの適応が妨げられること)の矛盾は持久系トレーニングの量によって主に説明できる可能性を指摘していました(持久系トレーニングの量が多ければ、干渉効果が起こりやすい)。

また、前回説明した論文と今回の論文を踏まえると、ピークRFDやジャンプ、240度/秒の等速性筋力といった高収縮速度での力の発揮能力は、より干渉効果を受けやすいと言えそうです。
(前回の論文は実験群で増加なし、今回は増加したものの対照群に比べると軽微)

まとめ

週5時間程度の持久系トレーニングであれば、干渉効果の心配はさほど不要