高地トレーニング合宿で成功する負荷のマネジメントのコツ

はじめに

陸上競技長距離走のエリート選手の多くは、レースに向けた大切なトレーニング期を高地で実施しています。
高地合宿で十分なトレーニングが積めたアスリートは、その後に優れたパフォーマンスが期待できるものの、合宿中に体調不良に陥ってしまう者もいます。
これは、特殊な環境下(酸素分圧が低くなることから身体に対する負荷が増える)で行われることもあり、その反応に個人差が大きいからだと考えられます。

今回は、ドイツのナショナルチームに所属する中長距離選手を対象とした3週間の高地トレーニング合宿の負荷のマネジメントを報告した論文を紹介します。

論文概要

出典

Sperlich, B., Achtzehn, S., de Marées, M., von Papen, H., & Mester, J. (2016). Load management in elite German distance runners during 3-weeks of high-altitude training. Physiological reports, 4(12), e12845. https://doi.org/10.14814/phy2.12845

方法
ドイツのナショナルチームの中長距離選手9名(男性7名、女性2名)を対象
対象者は時差を伴うフライト後に海抜約2100mの環境で21日間のトレーニング合宿を実施
合宿中は午前7-9時に空腹状態での測定を毎日あるいは隔日に実施

■毎日の測定
ヘモグロビン飽和度
安静時心拍数
体重
主観的体調・睡眠
クレアチンキナーゼ

■隔日の測定
尿素窒素
ヘモグロビン
ヘマトクリット
赤血球数
白血球数

■漸増負荷試験
4日目と21日目に400mトラックを利用して実施
血中乳酸濃度が3mmol/Lのランニングスピードを測定

■トレーニング負荷のマネジメント
毎日・隔日実施した測定指標が2つ以上、各自の基準範囲を外れた場合にトレーニング負荷を減少
各自の基準範囲は、1日目の数値や過去の測定データをもとに決定
トレーニング負荷の減少は、コーチやアスリートの経験に基づき実施したため、定量不可

結果
3mmol/Lのランニングスピードは4日目に比べて21日目で増加(4.4m/s→4.6m/s、平均値)

合宿中にアンダーパフォーマンス、慢性的な筋ダメージ、主観的な体調や睡眠の低下を報告したアスリートはいなかった

解説

他の研究や実践現場での取り組みのレポートなどを読むと、高地合宿中に体重減少、顕著な筋ダメージ発生、睡眠の悪化、パフォーマンスの停滞などのネガティブな現象が起こることが報告されています。
本論文では、毎日あるいは隔日で測定した指標をもとにトレーニング負荷のマネジメントを行った結果、合宿に参加した全アスリートが体調不良を避けられています。

トレーニングの負荷を調整するか、それとも自分自身をその負荷に合わせ続けるのかについて。
これは、程度の問題ですが、高地や暑熱などの特殊な環境下では個人差が大きく現れるため、集団で行う場合には、個別に負荷を調整した方がリスクを減らすことができるかもしれません。

また、負荷を減らす際には、量、強度、頻度のどれを調整すべきかについては、個別の状況に応じた的確なセンスが求められるに違いありません。

まとめ

高地トレーニングは体調に合わせたトレーニング負荷の柔軟な調整が大切