日頃から十分なタンパク質を摂取するマラソンランナーはレース後の急性ストレス応答を軽減できるかもしれない

2021年10月15日

はじめに

以前、フルマラソン大会を対象として、レース中あるいはレース後に糖質のみを摂取した場合に比べて、糖質とタンパク質を同時摂取することで、主観的回復度が促進されることを紹介しました。

健康的な若年男性を対象とした別の研究において、習慣的なプロテインサプリメントの摂取は、全身持久力(最大酸素摂取量)や身体組成の改善に効果的なことも報告した論文も紹介しました。

これらのエビデンスは、持久系アスリートやエンデュランススポーツ愛好家におけるタンパク質摂取の重要性を示唆しています。

今回紹介する論文は、フルマラソン大会に向けての3カ月間のトレーニング期間にプロテインサプリメントを摂取したときの効果を検証しています。
多くの先行研究は、大会直前の数日間あるいは大会当日のみに栄養介入を行っている一方、この論文は3カ月間という比較的長期にわたり介入したことにオリジナリティがあります。

論文概要

出典

Röhling, M., McCarthy, D., & Berg, A. (2021). Continuous Protein Supplementation Reduces Acute Exercise-Induced Stress Markers in Athletes Performing Marathon. Nutrients, 13(9), 2929.

方法
ランダム化比較試験(Randomized controlled trail: RCT)
実験の参加基準:年齢が18-60歳、BMIが18-25kg/m2、定期的なランニングトレーニング習慣あり、など。

参加基準を満たした30名を下記2群に分類
・実験群(男性10名、女性5名)
・コントロール群(男性10名、女性5名)

対象者は3カ月間のトレーニング期間後にフルマラソンに出場
両群のトレーニングは経験豊富な指導者によって監修

実験群は、市販サプリメント(大豆たんぱく質、脱脂粉乳、蜂蜜で構成)を毎日2回摂取(朝食前、午後あるいは夕方)
サプリメントの詳細は下記のとおり
・タンパク質の83%が大豆由来、17%が乳タンパク質由来
・サプリメント(50g分)に加えて、9gパラチノース、30mgのカルニチン、10mgのコエンザイムQ10、0.5mgのαリボ酸を配合
・マクロ栄養素は217kcal、27.2gのタンパク質、24.6gの糖質、1.0gの脂質

主な測定項目は下記のとおり
・形態・身体組成

・血液サンプル
→全血球数(白血球を含む)、クレアチニンキナーゼ、ミオグロビン、IL-6、コルチゾール
※これらの指標をもとにストレススコアを算出

・トレッドミルテスト
→トレーニング期間の前後に実施

・食事記録
→トレーニング期間の前後に各3日間

結果
・途中離脱やレース未完走によって分析対象者数は3カ月のトレーニング期間前後で23名(実験群:10名、コントロール群13名)、レース前後で21名(実験群:9名、コントロール群:12名)

・形態・身体組成はトレーニング期間前後で両群ともに変化なし

・タンパク質摂取量は実験群のみトレーニング期間後に増加(実験群:1.2g/kg→1.8g/kg、コントロール群:1.2g/kg→1.2g/kg)
・実験群ではトレーニング期間後にほとんどの対象者でタンパク質からのエネルギー摂取率が20%を超えていた(実験群:15%→23%、コントロール群:16%→16%)
・総エネルギー摂取量、糖質摂取量は両群ともに変化なし(群間差もなし)

・トレッドミルテストの最大酸素摂取量や最高走速度は両群ともに増加

・レース後のミオグロビン後の増加は実験群で軽微(実験群:26.0μg/L→880μg/L、コントロール群:32.0μg/L→2200μg/L)

・タンパク質からのエネルギー摂取率が20%未満・以上で群分けした場合、マラソンレース後のCK、ミオグロビン、IL-6、コルチゾール、ストレススコアの増加は20%未満のグループで顕著

解説

この論文は、フルマラソン大会前3カ月間にわたり、タンパク質が豊富なサプリメントを摂取することで、レース後の筋ダメージに関する血液マーカー(ミオグロビン)の増加の程度が軽減することが示唆されました。
また、タンパク質からのエネルギー摂取率20%を境目として群分けした場合、多くの血液マーカーに有意差がみられた結果は、サプリメントというよりも、食事を含めた1日の総エネルギー摂取量のうち、タンパク質の摂取率を20%以上に保つことが重要だと言えます。

以前紹介した論文と同様に、この論文の実験群のサプリメントもタンパク質に加えて糖質が含まれていました。
したがって、タンパク質と糖質の同時摂取によって効果が得られた可能性が考えられます。

対象者のレベルに限らずスポーツ科学におけるアウトカムの多くは非常に複雑で多数の要因で制御されているため、縦断研究の結果を一つの要素で説明するのは困難です。
しかし、タンパク質と糖質は持久系アスリートにとって最優先すべき栄養素であるに違いないでしょう。

まとめ

マラソンランナーは普段から十分なタンパク質を摂取することで、レース後のストレス応答を軽減できるかもしれない