トレランレースのリカバリーは栄養よりフィットネスが重要な可能性

はじめに

長距離を走ると、血液マーカーが通常の健康診断の標準範囲から逸脱することがあります。
この変動は通常一過性であり、普段の健康状態を把握する際とは持つ意味が異なります。
しかし、血液マーカーの変化は、身体へのダメージを反映するものであり、長距離走後のダメージを評価する研究でも、血液マーカーを測定する場合が多いです。

今回紹介する論文ではマスターランナーを対象として、28kmトレイルランニングレース後の血液マーカー、身体組成の変化と栄養面やフィットネスとの関連を検証しています。

論文概要

出典

Methenitis, S., Cherouveim, E. D., Kroupis, C., Tsantes, A., Ketselidi, K., Vlachopoulou, E., … & Koulouvaris, P. (2021). The importance of aerobic capacity and nutrition in recreational master mountain runners’ performance and race-induced changes in body composition and biochemical blood indices. International Journal of Sports Science & Coaching, 17479541211056398.

方法
28kmトレイルレース(Vamvakou 280km mountain race)出場ランナー25名のうち、レースの完走時間をもとにした上位10名と下位10名の計20名を対象

レースの1週間前にトレッドミルテストを実施、最大酸素摂取量、最大酸素摂取量の走速度および換気性閾値などを測定

レースの1週間前からの食事摂取状況を思い出し法で評価
レース中の栄養摂取状況も評価

レースの1.5時間前と3時間後に身体組成の測定と血液サンプルを採取
身体組成はキャリパー法による皮下脂肪厚によって除脂肪量を評価

結果
・上位群と下位群で比較したところ、下位群における除脂肪量の減少、血液マーカーの変化が顕著

・最大酸素摂取量、最大摂取量の走速度、レースタイムといったフィットネスの方が栄養摂取状況に比べて除脂肪量や血液マーカーの変化との相関係数が高かった
→フィットネスに優れる者は、除脂肪量の減少や血液マーカーの変化が軽微な傾向

・除脂肪量や血液マーカーの変化に与える影響は糖質とタンパク質で同程度

解説

この論文は、評価指標として、除脂肪量と血液マーカーを採用しています。
血液マーカーは、具体的にはクレアチンキナーゼ(CPK)、LDH、心筋トロポニンI、血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(SGPT)、C反応性蛋白(CRP)といった骨格筋、心筋、肝臓および全身性炎症に関する指標を中心に測定していました。

得られた結果は、フィットネスとレース前およびレース中の栄養摂取状況がレース後のダメージに関係していたものの、相関係数の強さで判断した場合、その影響はフィットネスで顕著でした。
商業的な理由から栄養補給がリカバリーに与える影響は時に過大評価されているように感じます。
また、フィットネスに優劣のあるランナーを比較すると、多くの場合フィットネスに優れる者(すなわちレースを短い時間で完走できる)のトレーニング負荷が多いです。
したがって、リカバリー対策でも日々の鍛錬・努力が大切であり、その場凌ぎとも呼べるアプローチに過大な期待をするのは良くないのかもしれません。

また、栄養摂取状況については、糖質とタンパク質は同程度の重要性を持っていました。
この結果は、15kmロードレース出場ランナーを対象として、糖質補給と比べた場合、タンパク質を補給しても筋肉痛や筋ダメージに関係する血液指標に対する回復促進効果がないことを示した論文を支持するものです。


こちらも商業的な理由からタンパク質がリカバリーに与える影響は時に過大評価されているように感じます。
基本的にはタンパク質は適量があり、摂れば摂るほどリカバリーが促進するというのは誤った認識に思います。

まとめ

普段のトレーニングを充実させることで、トレラン後のダメージを軽減できる