長距離ランナーはエネルギー不足でトレーニングすると鉄吸収を妨げるホルモンが増える

はじめに

エネルギー・アベイラビリティ(Energy availability: EA)は、1日の総エネルギー摂取量から運動中のエネルギー消費量を引いた値を除脂肪量(FFM)で除して求めることができ、日常生活で利用可能なエネルギーを指します。

低いエネルギー・アベイラビリティ(Low Energy Availability: LEA)、すなわちエネルギー不足の状態では、安静時代謝量の減少や代謝・ホルモン機能に異常をきたし、女性アスリートにおいては月経異常や骨粗鬆症を引き起こします
また、性別を問わずLEAはパフォーマンスや健康面へネガティブな影響を及ぼすため、アスリートは運動トレーニングによる消費エネルギーの増大に見合う十分なエネルギーを摂取することが重要です。

今回紹介する論文は、男性長距離ランナーを対象として、LEAでの3日間のトレーニングが鉄代謝に関わるホルモンや筋グリコーゲン、炎症マーカーに及ぼす影響を検証しています。

論文概要

出典

JIshibashi, A., Kojima, C., Tanabe, Y., Iwayama, K., Hiroyama, T., Tsuji, T., Kamei, A., Goto, K., & Takahashi, H. (2020). Effect of low energy availability during three consecutive days of endurance training on iron metabolism in male long distance runners. Physiological reports, 8(12), e14494. https://doi.org/10.14814/phy2.14494

方法
6名の男性長距離ランナーを対象(5000mの平均タイム:15分18秒)

ランダム化クロスオーバーデザイン
対象者は4日間で構成された下記2条件のトライアルを実施
(条件間のウォッシュアウト期間:1週間以上)
・Low Energy Availability(LEA): 20 kcal/kg FFM/day未満
・Neutral Energy Availability (NEA):45kcal/kg FFM/day以上

最初の3日間は午前10時から75分@70%最大酸素摂取量のトレッドミル走を実施(走行距離:約19km/日)

体重、身体組成(多周波インピーダンス法)、筋グリコーゲン濃度(炭素磁気共鳴分光法)、血液サンプル(ヘモグロビン、血清フェリチン、血漿IL-6、血清ヘプシジン等)を毎日測定
※各項目は基本的に安静(運動前)に測定、ただし血液サンプルのみ1-4日間をとおして早朝空腹時での測定に加え3日目はトレッドミル走の直後、3時間後にも測定

結果
・エネルギー摂取量(LEA:約2070kcal/日、NEA:約3980kcal/日)、エネルギー・アベイラビリティ(LEA:約18.4 kcal/FFM/日、NEA:約約52.4kcal/FFM/日)、糖質摂取量、脂質摂取量、タンパク質摂取量はLEAが多かった

・鉄の摂取量は群間差なし(LEA:9.0mg/日、NEA: 11.1mg/日)

・形態・身体組成はNEAで変化なし、LEAでは1日目に比べて2・4日目の除脂肪量が減少、また1日目に比べて2・3・4日目の体重が減少

・4日間を通した安静時血清ヘプシジンの曲線下面積はLEAが大きかった

・ヘモグロビンは4日間を通して群間差なし

・血清フェリチンは4日目で群間差があった(LEAで高かった)

・血漿IL-6はランニング後の上昇がNEAで顕著だった(LEA:0.19pg/ml→1.36pg/ml、NEA:0.15pg/ml→0.39pg/ml)

・筋グリコーゲンはNEAでは4日間をとおして変化なし、LEAでは1日目に比べて2・3・4日目で減少(群間差あり)

解説

ヘプシジンは肝臓で産生され体内の鉄量を調整するホルモンです。
またヘプシジンは食事に含まれる鉄の体内への吸収を抑制する働きがあり、ヘプシジンの過度な増加は貯蔵鉄量の減少を誘発するとされています。

長距離ランナーでしばし問題となる鉄欠乏性貧血は、体内の鉄が不足することで赤血球中に含まれるヘモグロビンが作れなくなることによって生じ、体内の酸素運搬能力を低下させ、パフォーマンスを低下させます。
したがって、ヘプシジンの過度な増加は、パフォーマンス低下を引き起こす恐れがあります。
この論文では、男性長距離ランナーがエネルギー不足の状態でトレーニングを行うと、安静時のヘプシジン濃度が顕著に増加することが示されました。

またこの論文では、エネルギー不足の状態でランニングを行うと、比較的早期(翌日)に安静時の筋グリコーゲン濃度が減少すること、トレーニングによるIL-6の増加が顕著なことも報告しています。
IL-6は炎症性サイトカインの一種で、全身の様々な部位の免疫応答を活性化させます。
実際、IL-6の増加は、筋グリコーゲンに依存することが示唆されていることを踏まえると、この論文の結果も頷けます。
(引用:Pedersen B. K. (2012). Muscular interleukin-6 and its role as an energy sensor. Medicine and science in sports and exercise, 44(3), 392–396. https://doi.org/10.1249/MSS.0b013e31822f94ac)

近年、様々な微量栄養素の働きに注目されています。
しかし、この論文からもいえるとおり、アスリートが第一に最適化させるべき栄養素はエネルギー・アベイラビリティや糖質・タンパク質・脂質といったマクロ栄養素(多量栄養素)だと考えています。

まとめ

長距離ランナーは、エネルギー不足で走ると鉄吸収を妨げるホルモン分泌が亢進する