女性ランナーが高強度の筋トレを実施してもランニングエコノミーが改善しなかった

2024年4月20日

はじめに

持久系アスリートが高強度の筋トレを行うことで、ランニングエコノミーが改善するという研究が数多くあります。

しかしながら、全ての研究で改善が確認されたわけではなく、中には改善が見られなかった研究もあります。
また、筋トレを実施することで、生理学的またはバイオメカニクス的にどのような変化が起こり、ランニングエコノミーが改善するかについてのメカニズムは、未だ明らかになっていない側面があります。

今回紹介する論文では、よくトレーニングされた女性アスリートを対象に、筋力トレーニングの効果を多角的に調べています。

論文概要

出典

Vikmoen, O., Raastad, T., Seynnes, O., Bergstrøm, K., Ellefsen, S., & Rønnestad, B. R. (2016). Effects of Heavy Strength Training on Running Performance and Determinants of Running Performance in Female Endurance Athletes. PloS one, 11(3), e0150799. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0150799

方法
28名の女性持久系アスリートを対象とした11週間の介入実験
対象者は最大酸素摂取量が均等になるように、ランダムに下記の2群に割り当て
・持久系トレーニング+ストレングストレーニング群(E+S群)
・持久系トレーニング群(E群)

介入期間中の怪我、妊娠発覚、病気などによって最終的なデータ分析対象者数はE+S群が11名、E群が8名

■持久系トレーニング
介入期間中の持久系トレーニングの変数に群間差なし
両群合わせてみると・・・
ゾーン1(低強度):平均3.7時間/週
ゾーン2(中強度):平均1.1時間/週
ゾーン3(高強度):平均0.8時間/週
頻度:4.3回/週

■E+S群のストレングストレーニング
頻度:2回/週
種目:ハーフスクワット(スミスマシン)、片脚レッグプレス、スタンディングワンレッグヒップフレクション(ケーブルクロスマシン)、プランターフレクション(スミスマシン)
セット数:3セット/種目
強度:4-10RMの範囲
オールアウトの有無:あり
収縮時間:最大努力(短縮性局面)、2-3秒(伸張性収縮)
サプリメント:セッション中に15gのタンパク質が入ったプロテインバーを摂取
その他:
ストレングストレーニングと持久系トレーニングは別日に実施することを推奨
もしも、同日に行う場合、ストレングストレーニングを最初に行うように指示

■評価・テスト項目
※トレッドミルの傾斜は全て5.3%

・1RMテスト
ハーフスクワット
ワンレッグレッグプレス

・血中乳酸プロフィールテスト
血中乳酸濃度が3.5mmol/Lのランニングスピード
時速10km時の酸素摂取量(ランニングエコノミー)

・最大負荷テスト
最大酸素摂取量
ピークランニングスピード

・ジャンプテスト
スクワットジャンプ(SJ)、カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)の高さ

・40分オールアウトテスト

・膝蓋腱の機械的・材料的特性
スティフネス
ヤング率
平均横断面積
(左脚を計測)

・筋生検サンプリング
タイプⅠ線維とタイプⅡ線維について、筋横断面積(CSA)と各線維の周りの毛細血管(CAF:capillaries around each fiber)と線維面積に関連した毛細血管(CAFA:capillaries related to fiber area)を評価
(外側広筋を計測)

結果
・体重
E+S群:変化なし
E群:減少

・1RM
E+S群:40.4%増加
E群:変化なし

・筋横断面積
E+S群:Ⅰ型・Ⅱ型ともに増加
E群:変化なし

・SJ、CMJ
E+S群:SJ、CMJともに増加
E群:変化なし

・毛細管現象
E+S群:変化なし
E群:変化なし

・膝蓋腱の機械的・材料的特性
E+S群:平均CSAのみ増加
E群:変化なし

・最大下、最大の生理学的指標、パフォーマンス指標
E+S群:変化なし
E群:変化なし

・40分オールアウトテスト
E+S群:変化なし
E群:%VO2maxのみ増加

解説

ストレングストレーニングがランニングエコノミーに及ぼす影響を検証した先行研究の多くが男性あるいは男女混合のランナーを対象としていたのに対し、この論文は女性のみをターゲットにしたことにオリジナリティがあります。
得られた主な結果は、トレーニングされた女性アスリートが通常の持久系トレーニングに加えてストレングストレーニングを加えても、ランニングエコノミーが改善しなかったことです。
また、ランニングパフォーマンス(40分オールアウトテスト、血中乳酸濃度が3.5mmol/Lのランニングスピード、ピークランニングスピード)も改善が認められませんでした。

ランニングエコノミーの改善が見られなかった理由は、採用された筋力トレーニングが膝蓋腱への適切な刺激を与えるのに不足していた可能性があります。

現場レベルでは筋力向上をランニングエコノミーに結びつける主張を見聞きしますが、この論文の結果を踏まえると、それは短絡的と言えそうです。

筋横断面積は増加したものの、体重が増加しなかったエビデンスは現場にも使えそうだと感じました。
一般に、ランナーやその指導者は体重増加にセンシティブであり、実際に体重増加はパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性はありますが、これぐらいの筋トレでは筋横断面積が増加したとしても、体重増加につながるレベルではなさそうです。

また、ストレングストレーニングは、毛細血管化にも影響を与えず、筋線維の肥大化にもかかわらず、これは持久力アスリートが持続的なトレーニングに重量トレーニングを追加する際に心配する必要がないことを示唆しています。

まとめ

筋トレをして筋横断面積が多少増えても体重は増加しない