ケトジェニックダイエットのランナーへの効果の個人差は自律神経によって説明できる

はじめに

ケトジェニックダイエットとは、炭水化物の摂取を制限し、代わりに脂肪を多く摂取する食事方法です。

ケトジェニックダイエットを続けると体内に蓄積される糖質量が少なくなり、脂肪から多くのエネルギーを生み出せるようになります。
身体に蓄えられる糖質には限界があるため、脂質から多くのエネルギーを産生することは糖質の節約につながり、持久性パフォーマンスに好影響を与える可能性があります。
これまでの研究によると、持久性アスリートを対象とした場合、1カ月程度のケトジェニックダイエットでも運動中の糖質と脂質の割合が変化することが分かっています。

一方で、ケトジェニックダイエットは心身への負荷が高く、トレーニングや日常生活に支障を来たす可能性が指摘されています。
また、2020年に発表されたケトジェニックダイエットが持久性パフォーマンスに及ぼす影響を検証したレビューによると、「研究数が少ないために決定的な結論をだすことはできない」とされており、そもそも持久性パフォーマンスの向上に効果的なのかという点でも疑問が残っています。
(引用:Bailey, C. P., & Hennessy, E. (2020). A review of the ketogenic diet for endurance athletes: performance enhancer or placebo effect?. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 17(1), 33. https://doi.org/10.1186/s12970-020-00362-9

今回は男性ランナーを対象として1カ月にわたるケトジェニックダイエットの効果について個人差を含めて検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Maunder, E., Dulson, D. K., & Shaw, D. M. (2021). Autonomic and Perceptual Responses to Induction of a Ketogenic Diet in Free-Living Endurance Athletes: A Randomized, Crossover Trial. International journal of sports physiology and performance, 1–7. Advance online publication. https://doi.org/10.1123/ijspp.2020-0814

※数値は平均値
方法
8名の男性ランナーが実験を完遂(年齢:29.6歳、身長:181cm、体重:73kg、最大酸素摂取量:59ml/kg/min)
全員が週50km以上のトレーニングを実施し、フルマラソンを3時間30分未満で完走できる能力を持っていた

ランダム化カウンターバランスクロスオーバーデザイン
対象者は下記二つの31日間の条件を実施
・通常の食事(Habitual diets:HD)
→普段通りの食事を摂取
・ケトジェニックダイエット(Ketogenic diets: KD)
→エネルギーバランスおよび体重は維持した上で糖質の摂取量を50g/日未満、糖質・タンパク質からのエネルギー摂取比率を15-20%とし、残りのエネルギーを脂質から摂取

介入期間中のトレーニングは対象者ごと設定
2条件目では1条件目の内容に類似するよう指示

介入期間の前後にトレッドミルでの漸増負荷試験と70%最大酸素摂取量での耐久走を実施
主な評価指標は漸増負荷試験の最大脂質酸化率、耐久走の持続時間

介入期間中は毎日起床時の心拍変動を測定
評価指標はrMSSDとRMSSDの変動係数(CV rMSSD)

加えて週に1回の頻度で主観的な回復度をRecovery-stress questionnaire for athlete(RESTQ-Sport)によって測定

結果
・糖質の摂取量:KD(34g/日)<HD(336g/日)
・脂質の摂取量:KD(286g/日)>HD(134g/日)
・タンパク質の摂取量:KD(145g/日)=HD(145g/日)
・エネルギー摂取量:KD(3272kcal/日)=HD(3129kcal/日)

・トレーニング負荷、走行距離:KD=HD

・漸増負荷試験の最大脂質酸化率はKDでは増加したが、HDでは変化がなかった

・KDのうち、介入期間後の漸増負荷試験における疲労困憊時の呼吸交換比が1.0未満だった4名は耐久走の持続時間が低下していた
・KDのうち、介入期間後の漸増負荷試験における疲労困憊時の呼吸交換比が1.0を超えていた4名は耐久走の持続時間は変化がなかった

・KDはrMSSDが低下し、CV rMSSDが増加していた(群の主効果あり)

・KDのうち、耐久走の持続時間が低下していた4名はrMSSDが低下傾向(-22 ms)だったが、変化がなかった4名は変化がなかった(+5ms)

・RESTQ-Sportは週・群の主効果ならびに交互作用がなかった

解説

この論文は、男性ランナーを対象として1カ月間にわたるケトジェニックダイエットの効果を検証しました。
その結果、ケトジェニックダイエット後の耐久走のパフォーマンスは低下した者が4名、変わらなかった者が4名と半々でした。
また、耐久走のパフォーマンスが低下したランナーでは、1) 漸増負荷試験の呼吸交換比が1.0未満、2) 介入期間中のrMSSDが低下しCV rMSSDが増加していました

1) の呼吸交換比は糖質と脂質の利用割合を示す指標です。
呼吸交換比が1.0以上ということは、全てのエネルギーを糖質から産生していることを意味します。
高強度運動では脂質よりも糖質を優先的に使うことから、通常の食事を摂っている場合、漸増負荷試験の疲労困憊時には1.0以上になることがほとんどです。
ケトジェニックダイエットによって糖質を使う能力が低下したランナーは、耐久走のパフォーマンスが低下していたことから、糖質を節約することは耐久走にはプラスに働かないと考えられます。

2) のrMSSDは自律神経に関する指標であり、rMSSDが低下したことは副交感神経の活性度が減少したことを意味しています。
また、副交感神経の活性度のバラツキを示すCV rMSSDも持久性パフォーマンスの変化を反映する指標です。
CV rMSSDは通常、数値が増加したときにパフォーマンスが低下している場合が多いとされています。
したがって、ケトジェニックダイエットによって耐久走のパフォーマンスが低下したランナーでは、自律神経からみたコンディションを崩していたと考えられます。

この論文でも耐久走パフォーマンスにポジティブな効果が認められなかったため、ランナーがあえてケトジェニックダイエットを行う必要性は高くないというのが正直な見方です。しかし、エリートウルトラマラソンランナーの中にはケトジェニックダイエットで効果を上げている選手がいるのも事実です。
この論文の結果を踏まえると、もしケトジェニックダイエットを行う場合は心拍変動を測定し、自律神経の状態を適宜チェックすることでネガティブな影響を避けられるのかもしれません。

まとめ

ケトジェニックダイエット中には自律神経のモニタリングが有用かもしれない