ランナーを対象とした異なる種類のストレングストレーニングの効果

はじめに

2000年頃から持久系アスリートを対象としたストレングストレーニング(筋トレ)の効果を検討した報告がなされ始め、ここ数年では系統的レビュー・メタ分析といったエビデンスレベルの高い研究でも筋トレの効果が明らかになってきました。
具体的に明らかになってきたことは、エコノミーの改善と最高出力の向上です。

ただ、一つひとつの研究をみていくと、エコノミーの改善が認められない研究もあれば、エビデンス的にはさほど有効性が認められていない低強度高回数のアプローチでパフォーマンス向上が認められているものもあります。

今回紹介する論文は、今から10年以上も前に発表された研究ではありますが、レクリエーショナルランナーを対象として、3種類の筋トレの効果を比較しています。

論文概要

出典

Mikkola, J., Vesterinen, V., Taipale, R., Capostagno, B., Häkkinen, K., & Nummela, A. (2011). Effect of resistance training regimens on treadmill running and neuromuscular performance in recreational endurance runners. Journal of sports sciences, 29(13), 1359–1371. https://doi.org/10.1080/02640414.2011.589467

方法
男性のレクリエーショナルランナーを対象とした研究
6週間の準備期期間後に8週間の介入期間に参加
介入期間中は下記3群に割り当て
・高重量筋トレ
・爆発的筋トレ
・筋持久系筋トレ(低重量筋トレ)
⇒低重量筋トレは対照群と位置づけ、多くの持久系アスリートが実施しているサーキット形式で実施

■ストレングストレーニングの概要
準備期間中、全員が筋トレに慣れるために合計9回のセッションを実施(10-15回@50-70%1RM、2-3セット)
介入期間中、各群が週2回の筋トレを実施(ランニングトレーニングと別日実施)
・種目
高重量筋トレ群と爆発的筋トレ群は、スミスマシンスクワットとレッグプレスが必ず含まれる
爆発的筋トレ群は、セッションごとに異なる種類のジャンプ系エクササイズも実施
低重量筋トレ群の下半身の種目はスクワットとランジ

・その他の変数
高重量筋トレ群は、2-3分の休息、高重量(3×4-6RM)でコンセントリック局面を可能な限り早く実施
爆発的筋トレ群は、2-3分の休息、低強度(0-40%1RM)で最大スピードにて実施
低重量筋トレ群は、自体重をベースとしたサーキット形式で実施
低重量筋トレ群が約30分/回、他の2群は約60分/回

持久系トレーニングは低強度中心で継続実施

■評価・テスト項目
・形態
体重、体脂肪率(皮下脂肪厚をもとに評価)

・筋力
両足の脚伸展(1RM)

・ジャンプ
垂直跳び

・筋電図活動
1RM、垂直跳び中に評価

・最大無酸素性ランニングテスト
Maximal Anaerobic Running Test(MART)を実施

・有酸素性の生理学的指標・パフォーマンス
トレッドミルテストを実施
最大下の酸素摂取量(ランニングエコノミー)、最大酸素摂取量、最高有酸素性ランニングスピードなどを評価

・安静時血液
血清のテストステロン、コルチゾール

結果
・体重
高重量筋トレ群:減少
爆発的筋トレ群:減少
低重量筋トレ群:減少

・1RM(筋活動レベル)
高重量筋トレ群:増加(増加)
爆発的筋トレ群:増加(増加)
低重量筋トレ群:変化なし

・垂直跳び
高重量筋トレ群:増加
爆発的筋トレ群:変化なし
低重量筋トレ群:変化なし

・MARTの最大スピード
高重量筋トレ群:増加
爆発的筋トレ群:変化なし
低重量筋トレ群:変化なし

・最高有酸素性ランニングスピード
高重量筋トレ群:増加
爆発的筋トレ群:増加
低重量筋トレ群:増加
⇒群×時間の交互作用あり、低重量筋トレ群が最も増加

・ランニングエコノミー
高重量筋トレ群:変化なし
爆発的筋トレ群:変化なし
低重量筋トレ群:変化なし

・最大酸素摂取量
高重量筋トレ群:変化なし
爆発的筋トレ群:変化なし
低重量筋トレ群:変化なし(効果量は0.65で増加傾向)

・安静時血液
高重量筋トレ群:変化なし
爆発的筋トレ群:変化なし
低重量筋トレ群:変化なし

解説

この論文は、ランナーを対象とした筋トレの効果が複雑であり、世間一般に言われるランニングエコノミー向上のメカニズムが現実と一致しない可能性を示唆しています。
一般に、動的筋力(1RM)の向上が、ランニング時の筋負荷を軽減し、より経済的な走行につながるとされています。
これは、例えばより多くのタイプⅠ線維が活動することにより、エネルギーの経済的な利用が促進されるためです。
しかし、この研究では、1RMの増加が認められた高重量筋トレ群や爆発的筋トレ群においても、ランニングエコノミーの改善は見られませんでした。

また、長距離走のパフォーマンス指標として妥当性のある最高有酸素性ランニングスピードが低重量筋トレ群で最も増加していたという点も注目に値します。
おそらく、各テストの再現性や低重量筋トレ群における最大酸素摂取量の増加傾向、そして論文には現れていない各群の微妙なトレーニングやコンディションの違いなどが結果に影響していると思われます。

まとめ

ランナーを対象とした筋トレの効果は複雑