厚底カーボンシューズのエコノミー向上率を比較した研究

2022年4月27日

はじめに

以前、ナイキ社の厚底カーボンシューズがランニングエコノミーに及ぼす影響を検証した一連の研究をまとめました。

ランニングエコノミーとは、走る際にエネルギーをどれだけ経済的に使えているのかを表す指標です。
通常、一定速度走行時の酸素摂取量やエネルギー消費量、あるいは一定距離走行時に必要な酸素量やエネルギー量によって評価し、数値が低いほどエコノミーに優れる、エネルギーを節約していると判断します。

一連の研究を要約すると、
・従来型のマラソンシューズに比べると約4%の節約が認められる(一つ目の論文)
・性別に関わらず節約が起こる(二つ目の論文)
・プロトタイプではなく市販タイプでも節約が認められる(三つ目の論文)
・エリートランナーのみならず市民ランナーでも節約が認められる(四つ目の論文)
・平地のみならず、登りや下りでも節約が認められる(五つ目の論文)
というものでした。

上記の一連の論文は、ヴェイパーフライに関するものがほとんどであり、後発のアルファフライを対象としたエビデンスは限られています。
また、現在では多くのメーカーが厚底カーボンシューズを販売しています。

今回はアシックス社、ナイキ社、ニューバランス社、ホカ社、ブルックス社、サッカー社が発売している厚底カーボンシューズがランニングエコノミーに及ぼす影響を検証した論文を紹介します。
なお、この論文は大学出版物(Faculty Publication)であり、現時点では査読を受けたものではありません。

論文概要

出典

Joubert, Dustin P. and Jones, Garrett P., “A Comparison of Running Economy Across Seven Carbon-Plated Racing Shoes" (2021). Faculty Publications. 33.https://scholarworks.sfasu.edu/kinesiology/33

方法
被験者は一定の選択基準(5kmを17分30分未満あるいはそれに相当する走力、シューズサイズがUS men’s表記で10-11等)を満たした12名の男性ランナー

下記7つの厚底カーボンシューズと1つの非厚底カーボンシューズを対象
・Asics Metaspeed Sky(Asics MS、209g、厚底カーボン搭載、250$)
・Nike ZoomX Vapofly Next%2(Nike VF2、211g、厚底カーボン搭載、250$)
・New Balance Fuel Cell RC Elite(New Bal RC、221g、厚底カーボン搭載、225$)
・Hoka RocketX(Hoka RX、224g、厚底カーボン搭載、180$)
・Brooks Hyperion Elite2(Brook HE2、229g、厚底カーボン搭載、250$)
・Saucony Endorphin Pro(Saucony EP、39g、厚底カーボン搭載、200$)
・Nike Air Zoom Alphafly Next%(Nike AF、240g、厚底カーボン搭載、275$)
・Asics Hyperspeed(Asics HS、227g、90$)

重量はUS men’sサイズで10・10.5・11の平均値
$はその当時の標準的な小売価格

ランニングエコノミーの評価方法:
トレッドミル走(時速16km)
5分×8試行を2回(2日)実施
3-5分の呼気ガスデータを利用
1回目の順序は被験者ごとランダムに決定、2回目は1回目と逆の順番に実施
その他、Garmin社の加速度計心拍ベルトを利用し、ランニングメカニクス指標(接地時間、接地時間の左右差、上下動など)を評価
データは2回の平均値を採用

結果
酸素摂取量の平均値は下記のとおり
Nike AF:50.13ml/kg/min
Nike VF2:50.29ml/kg/min
Asics MS:50.39ml/kg/min
Saucony EP:50.93ml/kg/min
New Bal RC:50.99ml/kg/min
Brooks HE2:51.42ml/kg/min
Hoka RX:51.67ml/kg/min
Asics HS:51.71ml/kg/min

酸素摂取量の比較結果は下記のとおり
Asics HSとHoka RXおよびBrooks HE2に有意差なし
New Bal RC、Saucony EPはAsics MS、Nike VF2、Nike AFより劣る
Asics MS、Nike VF2、Nike AFは有意差なし

シューズごとの酸素摂取量(平均値)とケーデンス(平均値)(r = 0.729)、ストライド長(平均値)(r = -0.716)、上下動(平均値)(r = -0.747)との間に有意な相関関係

解説

この論文は、様々なメーカーから販売されている厚底カーボンシューズのランニングエコノミー節約効果を検証しています。
その結果、非厚底シューズ(アシックス社のハイパースピード)と比べると、Hoka RXおよびBrooks HE2は節約効果がありませんでした。
また、New Bal RCとSaucony EPは、節約効果が認められましたが、その度合いはAsics MS、Nike VF2およびNike AFに比べて小さいものでした。
したがって、今回の結果からは、ランニングエコノミーの節約にはアシックス社のメタスピード、ナイキ社のヴェイパーフライ2・アルファフライが推奨されると言えます。

シューズごとの酸素摂取量とランニングメカニクス指標の相関関係をみてみると、メタスピード、ヴェイパーフライおよびアルファフライを履くと、いわゆるピッチ型からストライド型に移行傾向が伺えます。
ただし、その変化量をみてみると、一般に思われているよりマイナーな変化にみえます。
例えばストライド長をみると、ハイパースピードが3.03mであったのに対し、ヴェイパーフライ2が3.04m、メタスピードが3.05m、アルファフライが3.06mと0.01-0.03mの差です。
また、厚底を履くと接地時間が減るという日本の新聞記事がありますが、この論文のデータは逆の傾向があり、非厚底シューズのハイパースピード(203ms)に比べて、メタスピード(206ms)の方が長くなっています。
※いずれも平均値

上記以外にも厚底カーボンシューズを履いた時のフォームについて様々なことが言及されています。
しかし、これらの変化を妥当にみるには、走行時間や速度といった諸条件を統制する必要があり、指導者や専門家のコメントはさほどあてにならない気がしています。

まとめ

ランニングエコノミーの節約効果の高い厚底カーボンシューズはヴェイパーフライ、アルファフライ、メタスピード