UTMB後の睡眠とリカバリー

はじめに

良質な睡眠を確保することは、アスリートにとって最優先課題です。

競技時間が長時間にわたるウルトラマラソンでは、レース中は眠りの借金(睡眠負債)を作ることになります。
また、レース後はその借金を返すために沢山寝たいという願望がある一方で、レースで負ったダメージによって寝たくても寝られない状況に陥ることもあります。

今回紹介する論文では、ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)を完走したランナー達を対象として、レース前後の睡眠と主観的体調を検証しています。

論文概要

出典

Baron, P., Hermand, É., Elsworth-Edelsten, C., Pezé, T., Bourlois, V., Mauvieux, B., & Hurdiel, R. (2022). Sleep and Subjective Recovery in Amateur Trail Runners After the Ultra-Trail du Mont Blanc®(UTMB®). Journal of Science in Sport and Exercise, 1-7.

方法
2019年に開催されたUTMBのUTMB部門(170km,累積標高10,000m)に出場・完走しデータの欠損がなかった19名のランナーを対象

レースの10日前から10日後の3週間にわたり、三軸加速度計(wGT3X-BT)を用いて総睡眠時間、中途覚醒時間、中途覚醒回数を計測
レース中は7つのチェックポイントでレース中にとった仮眠状況を調査

Hooperの質問紙を用いて睡眠の質、ストレスの量、疲労、筋肉痛の状態を調査
各スコアの合計値をHooper Indexとして定量
※数値は低いほど優れる

結果
レース中の睡眠時間は年代によって多少異なるものの、平均1時間弱

レース前に比べるとHooper Indexは5日後まで、疲労は6日後まで、筋肉痛は4日後まで増加

中途覚醒時間はレースの8日後、9日後、10日後に比べて2日後で増加

中途覚醒時間と筋肉痛(r = 0.324)・Hooper Index(r = 0.195)との間に有意な正の相関関係

総睡眠時間と睡眠の質(r = -0.240)・ストレス(r = -0.190)・Hooper Index(r = -0.1935)との間に負の相関関係

解説

UTMB後には主観的体調が悪化し、その回復には1週間弱かかるようです。

一方、客観的に計測された総睡眠時間はレース前後で変化がありませんでした。
しかし、レース中は約2日間にわたりほとんど睡眠をとっていないことを踏まえると、レースで生じた眠りの借金は、レース後に取り戻せていなかったことになります。
理由の一つとして、論文の著者らは、プロアスリートでない限り、仕事や家庭の用事などの“social synchronizers”によって睡眠時間の制限が掛かってしまうことを挙げていました。
つまり、生きていくためのタスクによって、寝たくても寝られないということです。

中途覚醒時間は、レースの1週間後以降に比べると2日後で増えていたことから、2日後の睡眠が断片化したみることができます。
論文の著者らは、中途覚醒時間と筋肉痛との間に認められた正の相関関係をもとに、レース後の睡眠の断片化は、筋肉痛が関係した可能性を指摘していました。
UTMBのようなレースでは著しい筋ダメージが起きますが、ダメージはやはり睡眠に負の影響があるのかもしれません。

まとめ

100マイルトレランレースの主観的体調は1週間後には回復する