ロングインターバルのレストはアクティブかパッシブか?

2022年4月27日

はじめに

急走とリカバリーを交互に繰り返すインターバルトレーニングは、最大酸素摂取量( VO2max)を高める効果的なトレーニング法です。
その理由は、インターバルトレーニングでは、短い不完全な休息を挟むことによって、早期疲労を防ぎつつ、長時間にわたり強い生理的刺激を掛けられるからです。

インターバルトレーニングは、急走期の強度や時間をもとに、数種類に分類できますが、今回はおおよそ2分以上のロングインターバル(以下、ロングインターバル)に焦点を当てます。

生理的刺激の強弱の判断材料として、特定の%VO2max以上(例えば90%VO2max)の暴露時間があります。
特定の%VO2max以上のゾーンは時に”レッドゾーン”と呼ばれ、効果的なロングインターバル法を開発検証する研究では、レッドゾーンの暴露時間を評価しているものもあります。

2019年に発表された論文では、ランナーを対象として、急走期(高強度)の時間を4分、本数を4本とコントロールした上で、リカバリーの時間を1分、2分、3分、セルフ(十分に回復したと感じたら)の4パターンで比較した結果、レッドゾーン(90%VO2max以上)の暴露時間はリカバリー時間によって有意差がありませんでした。
つまり、ロングインターバルのリカバリー時間は、生理的刺激にさほど影響しないというエビデンスです。
なお、この論文では、急走期の走行速度はコントロールされていないため、リカバリー時間が3分の条件で高くなっていました。
したがって、リカバリー時間が長い場合でも急走期の走行速度が高まらない場合、短いリカバリー時間で強い刺激が得られる可能性はあります。
(出典:Schoenmakers, P., & Reed, K. E. (2019). The effects of recovery duration on physiological and perceptual responses of trained runners during four self-paced HIIT sessions. Journal of science and medicine in sport, 22(4), 462–466. https://doi.org/10.1016/j.jsams.2018.09.230

今回は急走期を2分、リカバリーを2分、本数を4本、とコントロールした上で、リカバリーの手段に着目した論文を紹介します。
この論文は、アクティブ(緩走)とパッシブ(完全休息)でリカバリーを過ごした際の心血管系への応答を比較しています。

論文概要

出典

Sánchez-Otero, T., Tuimil, J. L., Boullosa, D., Varela-Sanz, A., & Iglesias-Soler, E. (2022). Active vs. passive recovery during an aerobic interval training session in well-trained runners. European journal of applied physiology, 10.1007/s00421-022-04926-2. Advance online publication. https://doi.org/10.1007/s00421-022-04926-2

方法
11名の男性ランナー(10kmの自己記録:32分-38分30秒)

実験は2日以上の間隔を空けて合計5回のセッションで構成
(1回目:スケジュール確認・インフォームドコンセントなど、2回目:慣れ試行、3回目:最大テスト・神経筋パフォーマンステスト、4回目:インターバルトレーニング、5回目:インターバルトレーニング)

3回目:
5回連続垂直飛び(5 CMJ)で神経筋パフォーマンスを評価
Université de Montréal Track Test(モントリオール大学トラックテスト)によって最大有酸素走行速度(MAS)に加え、呼気ガスや心拍計を用いて最大酸素摂取量(VO2max)、最大心拍数(HRmax)、第二の換気性閾値の走行速度(vVT)などを評価

4・5回目:
ウォーミングアップ後に下記様式でインターバルトレーニングを実施
地面:陸上トラック
強度:100%MAS
時間:2分@急走-2分@リカバリー
本数:4本
リカバリーの条件:
アクティブ→80%vVT
パッシブ→運動なし

呼気ガスや心拍計を用いて酸素摂取量(VO2)・心拍数(HR)を計測
その他、インターバルトレーニングの前・中・後に5CMJや主観的強度(RPE)を計測

結果
ロングインターバル中の生理的刺激は下記のとおり
※数値は平均値

アクティブ(A) パッシブ(P) 有意差
平均VO2 49.62ml/kg/min 47.46ml/kg/min A>P
平均VO2(相対値) 83.82% 80.59% A>P
最高VO2 56.43ml/kg/min 57.86ml/kg/min 有意差なし
最高VO2(%VO2max) 95.11% 97.85% A<P
総走行距離 3733.33m 2496.97m A>P
レッドーゾーン(90%VO2max以上)の暴露時間 222秒 230秒 有意差なし
最高HR 169.28bpm 166.34bpm A>P

主観的強度はA>P

解説

10キロを40分未満で走行できる比較的シリアスなランナーを対象とした論文です。
得られた結果は、アクティブリカバリーとパッシブリカバリーでは、ロングインターバルの生理的刺激の評価指標であるレッドゾーンの暴露時間は変わらないことを示しています。

下図のとおり、パッシブ(PASSIVE)では、リカバリー中にVO2が低下しますが、急走が再開されると、すぐにVO2が立ち上がっています。

(Sánchez-Otero et al. (2022) Figure2を引用)

また、ロングインターバル中に記録された最高VO2(%VO2max)はパッシブで高い上、VO2の振れ幅もパッシブで大きくなっています。
これらの結果を踏まえると、生理的刺激はパッシブリカバリーの方が高かったという見方もできます。

最高HRはアクティブリカバリーで高くなっています。
HRはVO2の代替として生理学刺激の評価指標とする場合がありますが、VO2を規定する心拍数、1回拍出量、動静脈酸素較差のうち、後半2つは反映していません。
HRをもとに生理的刺激を判断することに意義があるとは思いますが、HRとVO2の応答はイコールでないことは認識する必要があります。

まとめ

ロングインターバルはレストをパッシブにすると生理的刺激が高まる可能性