PPG法でもある程度の精度が担保できる心拍数測定デバイスとは?

はじめに

以前、現状の技術では「スポーツ系スマートウォッチの心拍数はあてにならない」ことを解説しました。

スポーツ系スマートウォッチはPPG法という測定原理をもとに心拍数を推定しています。
(詳細は以前の記事をご参照)

同じPPG法でも上腕・前腕あるいはこめかみ部分に装着できるデバイスとしてPolar社製のOH1(Polar OH1)があります。

今回は運動中の心拍数についてPolar OH1・Fitbit Charge3(スマートウォッチ)で得られた数値と胸部電極式(Polar H10)で得られた数値を比較検証した論文を紹介します。

Polar H10は心電図法(ECG法)を基準とした場合、高い精度が担保できることが既に証明されているデバイスです。

論文概要

出典

Muggeridge, D. J., Hickson, K., Davies, A. V., Giggins, O. M., Megson, I. L., Gorely, T., & Crabtree, D. R. (2021). Measurement of Heart Rate Using the Polar OH1 and Fitbit Charge 3 Wearable Devices in Healthy Adults During Light, Moderate, Vigorous, and Sprint-Based Exercise: Validation Study. JMIR mHealth and uHealth, 9(3), e25313. https://doi.org/10.2196/25313

方法
20名の健康成人を対象
ただし実験の開始前・開始中の怪我等によって各トライアルの実施者は17-19名

各対象者は3日以上の間隔を空けて2日(Visit1・Visit2)にわたり実施
各対象者はPolar H10、Polar OH1(非利き腕の前腕)、Fitbit Charge(非利き腕の手首)を装着

Visit1の内容
・座位活動
・低-中強度(60-85%HR Reserve)運動(自転車エルゴメーター)
・漸増負荷試験(トレッドミルランニング)

Visit2の内容
・スプリント運動(自転車エルゴメーター)
・ スプリント運動(トレッドミルランニング)

結果
※いずれもPolar H10との比較

・座位活動
Polar OH1:平均バイアス0bpm、平均絶対パーセント誤差0.2%、相関係数0.983
Fitbit Charge 3:平均バイアス-1bpm、平均絶対パーセント誤差-1.5%、相関係数0.884

・自転車エルゴメーター低強度
Polar OH1:平均バイアス0bpm、平均絶対パーセント誤差0.7%、相関係数0.974
Fitbit Charge 3:平均バイアス-7bpm、平均絶対パーセント誤差-7%、相関係数0.056

・自転車エルゴメーター中強度
Polar OH1:平均バイアス1bpm、平均絶対パーセント誤差-0.8%、相関係数0.985
Fitbit Charge 3:平均バイアス-19bpm、平均絶対パーセント誤差-5%、相関係数0.183

・漸増負荷試験トレッドミルランニング
Polar OH1:平均バイアス0bpm、平均絶対パーセント誤差0.2%、相関係数0.992
Fitbit Charge 3:平均バイアス-2bpm、平均絶対パーセント誤差-1%、相関係数0.924

・スプリント自転車エルゴメーター
Polar OH1:平均バイアス5bpm、平均絶対パーセント誤差-4.1%、相関係数0.807
Fitbit Charge 3:平均バイアス-18bpm、平均絶対パーセント誤差-13.9%、相関係数0.771

・スプリントトレッドミルランニング
Polar OH1:平均バイアス1bpm、平均絶対パーセント誤差0.5%、相関係数0.67
Fitbit Charge 3:平均バイアス-8bpm、平均絶対パーセント誤差-6%、相関係数0.496

被験者ごとに全データを比較分析したところ、平均絶対パーセント誤差はPolar OH1で全員が5%未満(平均:0.41%)であったのに対し、Fitbit Charge 3では19名中7名が5%の閾値を超えていた(平均:4.37%)

解説

この論文は、上腕・前腕・こめかみ(この論文では前腕)に装着するデバイス(Polar OH1)、手首に装着するスマートウォッチ(Fitbit Charge3)の測定精度を胸部電極式のデバイス(Polar H10)と比較検証しています。
その結果、Polar OH1はスプリント以外の運動で高い妥当性が認められました
一方、Fitbit Charge3は全体的にPolar OH1より妥当性が低く、特に自転車エルゴメーターを用いた測定においてPolar H10の測定結果と大きな差がありました。

スプリント運動についてはPolar OH1を用いてもPolar H10との差が認められました。
この論文では、スプリント自転車エルゴメーター中の心拍数について全被験者のデータが図示されています。
その図をみてみると、18名中13名はPolar OH1とPolar H10とほぼ同等の数値が得られていました。
したがって、Polar OH1ではスプリント運動でも半分以上の人では妥当性のある心拍数が得られたと言えます。
一方、Fitbit Chare3は18名中5名のみでした。

PCG法(特に手首に装着するタイプ)は、運動強度の急激な変化に対する感受性が低いことが示唆されています。
その理由は手首の抹消抵抗が低いゆえに脈圧・脈拍の変化の検出が困難だからです。
したがって、Polar OH1では装着部位の特性によって脈圧・脈拍の変化の検出が容易となったことが高い妥当性に繋がった可能性があります。
またそれ以外にも体動(モーションアーチファクト)やデバイスのセンサーの性能の差なども結果に影響したと考えられます。

以前に紹介した論文やその他の先行研究によると、スマートウォッチの心拍数の測定精度は運動強度が高まるにつれて下がる傾向があります。
Polar OH1は高強度であってもスプリント形式を除けば高い測定精度が得られるため、エンデュランスアスリートやスポーツ愛好家にとってはオススメできるデバイスです。

まとめ

Polar OH1は運動中に心拍数を測りたい人にオススメできる