高齢者がメタボ解消を目的とした筋トレをするときにはカロリー制限を加えると効果アップ

2021年8月17日

はじめに

メタボリックシンドローム(メタボ)とは内臓脂肪の過剰蓄積に加え、高血圧、高血糖、脂質代謝異常が組み合わさった状態のことで、心血管疾患や糖尿病のリスクを高めます

飽食や運動不足が当たり前となった今日では、若年層でもメタボに該当する人は珍しくありませんが、高齢者のメタボは公衆衛生上の一つの社会問題です。

メタボを解消するための運動処方は、有酸素性トレーニングが用いられることが多く、高齢者を対象としたレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)の効果を検証した研究には限りがあります。

また、メタボを解消するためには、運動や活動量の増加によるエネルギー消費量増加に加え、食事制限(カロリー制限)によってエネルギー摂取量を減少させることも有効です。
特にレジスタンストレーニングは有酸素性トレーニングに比べると消費エネルギーが少ない傾向にあるため、カロリー制限を併用することで追加的な効果が期待できる可能性があります。

今回は太りすぎの高齢者を対象としたレジスタンストレーニングにカロリー制限を併用することでメタボの改善度合いに追加的な効果が得られるのかを検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Normandin, E., Chmelo, E., Lyles, M. F., Marsh, A. P., & Nicklas, B. J. (2017). Effect of Resistance Training and Caloric Restriction on the Metabolic Syndrome. Medicine and science in sports and exercise, 49(3), 413–419. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000001122

方法
126名の太りすぎの高齢者男女(参加基準:年齢65-79歳、過去6ヶ月間にわたってレジスタンストレーニングあるいは有酸素性トレーニングを実施してない、BMI27-35kg/m2など)をランダムに下記の2群の分類
・レジスタンストレーニング+カロリー制限(RT+CR)
・レジスタンストレーニング(RT)

介入期間は5か月
両群ともに週3回の頻度でレジスタンストレーニングを実施
負荷は最終的には70%1RM強度、8種目、3セット×10回実施できるように個別に漸増
RT+CRは、登録栄養士と毎週ミーティングを行い、体重の5-10%の減少を目的とした食事の代替、栄養教育、行動変容のアドバイスといったプログラムが提供された

5か月の介入期間前後に下記項目を測定
形態・身体組成:身長、体重、BMI、ウエスト周径囲、体脂肪量、体脂肪率、除脂肪量

血液指標:トリグリセリド、総コレステロール、VLDLコレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、インスリン、血糖値、インスリン感受性(HOMA-IR)

メタボリックシンドロームの定義(判定基準)は下記項目を3つ以上満たした場合
1) ウエスト周径囲:男性102cm以上、女性88cm以上
2) トリグリセリド:150mg/dl以上あるいはトリグリセリドを下げる薬の服用
3) HDLコレステロール:男性40mg/dl未満、女性50ml/dl未満あるいはHDLを上げる薬の服用
4) 空腹時血糖値:100mg/dl以上あるいは血糖値を下げる薬の服用
5) 血圧:収縮期血圧130mm/hg以上あるいは拡張期血圧85mm/hg以上あるいは高血圧の既往歴があり血圧を抑える薬の服用

結果
体重:RT+CRのみ減少(-5.67%)
体脂肪量、体脂肪率、除脂肪量:RTに比べてRT+CRは有意に減少

・メタボ該当率:RT+CRで46%から31%に減少。RTは変化なし(44%から44%)
・VLDLコレステロール、トリグリセリド、収縮期血圧、拡張期血圧:RTと比べてRT+CRで減少

解説

この論文は、太りすぎの高齢者を対象としたレジスタンストレーニングに食事制限を併用すると、追加的な効果が得られるのかを検証しました。
その結果、5か月という長期の介入期間であってもレジスタンストレーニングの実施のみでは体重やメタボ該当率は変化せず、食事制限を併用することで効果が認められました

筋肉(骨格筋)は、人体最大の代謝器官といわれています。
加齢に伴い筋肉量や筋肉の代謝機能が低下しがちな高齢者では、レジスタンストレーニングによって筋肉に特異的な刺激を与えることは大切です。
しかし、この論文の結果をもとにすると、太りすぎの高齢者においては、レジスタンストレーニングを実施するのみでは効果は期待できず、体重を落とすための食事制限を併用する必要があります

なお、RT+CRは5か月間にわたってレジスタンストレーニングを実施していたのも関わらず、除脂肪体重(≒筋肉量)は介入期間前より減少していました。
したがって、対象者が通常体重の範囲内である場合、過度な食事制限を行うことはサルコペニアの予防の観点から望ましくありません。
高齢者の場合、メタボを解消することを優先すべきか、サルコペニアを防ぐことを優先すべきか、現状の身体組成や筋力などをもとに個別に判断する必要があります。

まとめ

高齢者がメタボ解消目的に筋トレを実施する場合、カロリー制限も必要