減量スピードの違いが閉経後女性の身体組成に及ぼす影響

はじめに

過体重や肥満の人が体重を落とす場合、食事制限(カロリー制限)によって日々のエネルギー出納をマイナス(摂取カロリー<消費カロリー)にする必要があります

以前、太りすぎな人は、減量初期に厳しい食事制限によって体重を落とした場合、血液プロフィール(LDLコレステロール、血糖値、トリグリセリド)にはポジティブな効果が得られ、その程度は緩やかな食事制限を行ったグループよりも顕著であったことを報告した論文を紹介しました。

今回は閉経後女性を対象として、程度の異なるカロリー制限による減量プログラムが身体組成に与える影響を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Seimon, R. V., Wild-Taylor, A. L., Keating, S. E., McClintock, S., Harper, C., Gibson, A. A., Johnson, N. A., Fernando, H. A., Markovic, T. P., Center, J. R., Franklin, J., Liu, P. Y., Grieve, S. M., Lagopoulos, J., Caterson, I. D., Byrne, N. M., & Sainsbury, A. (2019). Effect of Weight Loss via Severe vs Moderate Energy Restriction on Lean Mass and Body Composition Among Postmenopausal Women With Obesity: The TEMPO Diet Randomized Clinical Trial. JAMA network open, 2(10), e1913733. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2019.13733

方法
The Type of Energy Manipulation for Promoting Optimum Metabolic Heath and Body Composition in Obesity (TEMPO) Diet Trialのデータを利用
※TEMPO Diet trialはオーストラリアで行われたランダム化臨床試験(トライアル期間12ヶ月)

対象者は閉経後5年以上経過している45-65歳の肥満女性(BMIが30-40kg/m2)

年齢、BMIをもとに層別化した上で下記の2群にランダムに分類
・中程度の食事制限(MI)
→推定エネルギー消費量の25-35%のカロリー制限を実施(週当たり0.5-1.0kgの体重減少が目安)
この中程度の食事制限は、オーストラリアの健康的な食事ガイドに基づき、食品ベースの食事制限を行った

・厳しい食事制限(SI):
推定エネルギー消費量の65-75%のカロリー制限を最大4か月もしくはBMIが20未満に達するまで実施(週当たり1.5-2.5kgの体重減少が目安)
この厳しい食事制限はホエイプロテインアイソレートを追加した代替食によって行われた
厳しい食事制限の期間終了後、実験終了後(12か月後)までは中程度の食事制限を実施

両群ともにタンパク質の摂取量は1g/kg/日になるようにコントロール

両群ともに日々の歩数を8000歩から12000歩まで徐々に増やすことや、30-60分/日の中-高強度の身体活動を行うことを推奨したが、これらの実施状況は監視されていなかった

実験開始前、4か月後、6ヶ月後、12か月後に下記項目を測定
・除脂肪体重、脂肪量、骨密度(二重X線吸収法)
・握力
・ウエスト・ヒップの周径囲
・腹部脂肪量、大腿部の筋面積、大腿部の脂肪分布(MRI)

結果
※代表的な結果を抜粋
・実験参加者101名のうち、85名が12か月間の試験を完了
→途中離脱者はMI(12名)がSI(4名)の3倍

・12か月後の時点でMIと比べるとSIは体重(SI:-15.3kg、MI:8.4kg)、脂肪量(SI:-10.2kg、MI:-5.5kg)、除脂肪体重(SI:-3.2kg、MI:-2.1kg)、大腿部の筋面積(SI:-8.2cm2、MI:-3.9cm2)、股関節の骨密度(SI:-0.032g/cm2、MI:-0.015g/cm2)が顕著に減少した。
→SIの除脂肪体重や大腿部の筋面積の減少の多さは、体重の減少量の程度が関与

・握力は群間差がなかった

・有害事象はSIで6件(痔核2件、胆石2件、脱毛2件)、MIで2件(片頭痛)観察
→MIの報告者は片頭痛の病歴があり、介入とは関連していないと考えられた

解説

この論文は閉経後女性を対象として1年間にわたるカロリー制限を2群にわけて検証しました。
その結果、最大4か月の期間にわたり厳しい食事制限を実施した群では、1) 体重や脂肪量の減少が著しい(約2倍)、2) 途中離脱する割合が少なかった(3分の1)、3) 除脂肪体重や大腿部の筋面積の減少が著しい(ただし、体重の減少量が多かったことが関係)、4) 股関節の骨密度の低下が著しかった(約2.5倍)、という結果が得られました。

このうち、1)と2) の結果は厳しい食事制限の有効性を示す結果です。
BMIが30を超えるような肥満者の場合、脂肪量の大幅な減少は肥満関連の合併症のリスクや医療コストの面からみて非常に効果を持ちます
また、減量プログラムにおいて途中離脱の可能性が低いアプローチであることは非常に重要です。
厳しい食事制限を実施したグループで途中離脱者が少なかったこの論文の結果は、すぐに体重が減ったことで動機付けが高まった可能性が考えられます。

一方、4) の結果は、厳しい食事制限のデメリットを示しています。特に女性は閉経以降、骨吸収を抑制する働きのあるエストロゲンの分泌が低下するため、骨密度が低くなりやすいという特徴があり、骨粗鬆症や転倒による骨折の可能性が高まります

一般に骨に対して直軸方向の負荷がかかるレジスタンストレーニング(例:スクワット)は骨密度の維持・増加の刺激になり得ると言われています。
この論文では、運動プログラムの介入がなかったため、レジスタンストレーニングの効果については推察の域を脱しませんが、骨密度や筋肉量の維持・増加は健康寿命の延伸のための重要な要素のため、特にエネルギー出納が負となる減量期間においてはレジスタンストレーニングを行うことは間違いなく大事です。

まとめ

厳しい食事制限を伴う減量プログラムは閉経後女性の体重・体脂肪の減少やプログラムの完遂率にポジティブな影響を与えるが、骨密度の低下が顕著となる