ヨーグルト・牛乳の摂取頻度と死亡率

はじめに

一般的にヨーグルト・牛乳は健康的な飲食物と認識されています。

しかし、ヨーグルト・牛乳の摂取と健康状態との関連に着目した研究の結果は必ずしも一致していない模様です。
その原因として、先行研究における各種飲食物の摂取の定量方法や、対象者の特性(人種、年齢、性別)、追跡期間などの関与が考えられています。
特に飲食物の効果は、国や地域によってそもそもの食習慣が異なるため、海外の研究結果が我々日本人にも当てはまるのかは、常に冷静にみる必要があります。

今回は、日本人を対象として、ヨーグルト・牛乳の摂取頻度と死亡率との関連を検証した論文を紹介します。
この論文は、以前にも紹介した山形県で実施された前向きコホート研究(Yamagata Study)のデータになります。


Yamagata Studyは、健康愛好家にとって面白い着眼点でコホート研究に取り組んでいる印象です。

論文概要

出典

Nakanishi, A., Homma, E., Osaki, T., Sho, R., Souri, M., Sato, H., Watanabe, M., Ishizawa, K., Ueno, Y., Kayama, T., & Konta, T. (2021). Association between milk and yogurt intake and mortality: a community-based cohort study (Yamagata study). BMC nutrition, 7(1), 33. https://doi.org/10.1186/s40795-021-00435-1

方法
山形県で実施された前向きコホート研究のデータ
対象者は2009-2015年に地域の健康診断を受けた40-74歳以上の男女19231人のうち、データの欠損などがなかった14264人

ヨーグルト・牛乳の摂取頻度の評価方法:
短縮版食品頻度調査票(Short Food Frequency Questionnaire: FFQ)を利用
回答の選択肢は、1) 1回/日以上、2) 5-6回/週、3) 3-4回/週、4) 1-2回/週、5) 1-3回/月、6) 1回/月未満
回答をもとに下記の4つのカテゴリーに分類
なし(1回/月未満)
低い(1-3回/月)
中程度(1-6回/週)
高い(1回/日以上)

年齢、性別、喫煙状況、飲酒習慣、教育レベル、高血圧、糖尿病、脂質異常症の影響を調整後、ヨーグルト・牛乳の摂取頻度と全死亡率、心血管死亡率および癌関連死亡率との関係をCox比例ハザードモデルにて検証

結果
ヨーグルトの摂取頻度の内訳は下記のとおり
なし:19.9%
低い:17.8%
中程度:38.3%
高い:24.0%

牛乳の摂取頻度の内訳は下記のとおり
なし:19.0%
低い:12.3%
中程度:36.8%
高い:32.0%

追跡期間中(最大9年、中央値:6.5年)に265名が死亡
うち40件が心血管死亡、90件が癌関連死亡

下記は、なしを基準とした際のハザード比(95%信頼区間)を示す

・ヨーグルトの摂取頻度と全死亡率との関連
低い:0.72 (0.48-1.07)
中程度:0.70 (0.49-0.99)
高い:0.62 (0.42-0.91)

・牛乳の摂取頻度と全死亡率との関連
低い:0.68 (0.41-1.09)
中程度:0.67 (0.46-0.97)
高い:1.06 (0.75-1.50)

・ヨーグルトの摂取頻度と癌関連死亡率との関連
低い:0.90 (0.48-1.63)
中程度:0.46 (0.24-0.86)
高い:0.53 (0.27-0.99)

・牛乳の摂取頻度と癌関連死亡率との関連
低い:0.70 (0.32-1.46)
中程度:0.42 (0.21-0.81)
高い:1.08 (0.62-1.89)

・ヨーグルトの摂取頻度と心血管死亡率との関連
低い:0.85 (0.26-2.49)
中程度:1.08 (0.44-2.74)
高い:1.06 (0.39-2.84)

・牛乳の摂取頻度と心血管死亡率との関連
低い:0.52 (0.11-1.78)
中程度:0.88 (0.38-2.18)
高い:0.50 (0.18-1.35)

解説

ハザード比とは相対的な危険度を比較する統計手法です。
今回紹介した論文の場合、ヨーグルト・牛乳の摂取頻度がなしを基準(1.0)とし、他の2群のハザード比が1.0より小さく、かつ95%信頼区間が1.0をまたがない場合、全死亡率や癌関連死亡率、心血管死亡率のリスクが低いという解釈になります。

得られた結果は、ヨーグルトの摂取が週1回以上(中程度・高い)、牛乳の摂取頻度が週1-6回(中程度)では、全死亡率および癌関連死亡率のリスク減少と関連していたことを示しています。

コホート研究というデザイン上、因果関係の推測には限界がありますが、論文の著者らは、乳製品に含まれるカルシウム、ラクトフェリンといった生理活性物質が癌の発症を予防する効果が推測されている一方で、牛乳に含まれるインスリン様成長因子(IGF-I)が前立腺癌など、いくつかの癌の発症に関連すると推測されていることを踏まえ、乳製品に含まれる各物質の量や配分によって死亡率に与える影響は異なる可能性があると指摘しています。

また、先行研究をもとにヨーグルトには微生物や乳酸菌といった人体に良い影響を与えるプロバイオティクス(十分量を摂取したときに宿主に有益な効果を与える生きた微生物)が含まれていることや、ヨーグルトが乳製品中に含まれるIG-Iの濃度を減少させる可能性があることにも触れています。
実際、ヨーグルトは高い頻度の摂取でも有意な関係が認められたのに対し、牛乳は高い頻度では有意な関係がありませんでした。
したがって、早期死亡や癌死亡のリスク軽減には、牛乳は飲めば飲むほど良いわけではなさそうです。

まとめ

ヨーグルトをよく食べる人は早期死亡のリスクを減らせるかもしれない