【温故知新シリーズ5】腹筋してもお腹の部分痩せは期待できない
はじめに
部分痩せ(スポットリダクション)は、特定部位の筋力トレーニングを行うことで、その部位の脂肪が特異的に減少するという主張です。
たとえば、「腹部の筋トレを行うことで、ウエスト周りの脂肪を減らす」は、部分痩せを主張しています。
最近では、活動した筋肉から分泌される生理物質によって、部分瘦せが生じるという見解があります。
しかし、基本的には鍛えた部位の脂肪だけが特異的に燃焼することは考えにくく、ウエスト周りの脂肪を落とすために腹部の筋トレ(腹筋トレーニング)のみを行うことは推奨できません。
今回は、部分痩せを否定する際に引用されることの多い論文を紹介します。
この論文の発刊年は2011年であり、Web上での論文の影響度を示すAlmetric Attention Scoreが650を超えており、数多くの科学記事に引用されています。
論文概要
出典
Vispute, S. S., Smith, J. D., LeCheminant, J. D., & Hurley, K. S. (2011). The effect of abdominal exercise on abdominal fat. Journal of strength and conditioning research, 25(9), 2559–2564. https://doi.org/10.1519/JSC.0b013e3181fb4a46
方法
24名の若年健常者を対象
対象者はランダムに下記の2群に分類
・腹部トレーニング群(14名)
・コントロール群(10名)介入期間は6週間
その前後で測定を実施腹部トレーニング群のトレーニング内容は下記のとおり
頻度:5回/週種目:
ベントニーシットアップ、ラテラルトランクフレクション、レッグリフト、オブリッククランチ、スタビリティボールクランチ、スタビリティボールツイスト、アブドミナルクランチ反復回数:10回
セット数:2セット
※1回のセッションは、5分間のウォームアップ(トレッドミルでの歩行)を合わせて合計約15分で構成
測定項目は下記のとおり
食事調査:介入期間の前と6週目に3日間の食事調査を実施身体組成・形態:
体重、身長、BMI
二重X線吸収法による全身と部位別の体脂肪
ウエスト周径囲
キャリパー法による皮下脂肪厚腹筋の持久力:1分間でのカールアップの実施回数
結果
・介入期間前の数値に群間差なし・食事調査は時間、群、時間×群の交互作用に関する有意差なし
・身体組成・形態は全項目で交互作用なし
→腹部トレーニング群の体重、体脂肪率、腹部の体脂肪率、ウエスト周径囲、腹部の皮下脂肪厚は変化なし・腹筋の持久力は時間×群の交互作用あり
→コントロール群の増加(5.5回)より腹部トレーニング群(14.6回)の増加が顕著
解説
この論文は、英語版ウィキペディアのSport reductionの項でも引用されています。
得られた結果は、いわゆる腹筋トレーニングを行うと腹筋の持久力は向上するものの、腹部脂肪の減少には繋がらなかったことを示しています。
前述したとおり、近年では少なからず部分瘦せを肯定する見解もありますが、体脂肪を減らすために重要なことは、エネルギー出納(摂取カロリーと消費カロリーのバランス)をマイナスにすることです。
論文の著者らも、エネルギー出納の観点を触れており、この腹部トレーニングプログラムでは、体脂肪を減らすのに十分な消費カロリーを得ることができなかったと考察しています。
事実、腹部の筋肉は、表面積こそ大きいものの、体積が小さいため、消費カロリー増大を目的として腹筋トレーニングを行うのは、あまり合理的ではありません。
腹筋のバルクアップを図ったり、腹筋のカットを出したり溝を深くしたりするために腹部トレーニングを行うことは合理的なアプローチです。
また、この論文でも示されたとおり、特定部位の筋トレは、その部位の筋力や筋持久力向上に効果的です。
ボディーメーキングをシンプルに考えると、「体脂肪を落としながら、筋肉をつけていく(あるいは維持する)」に落ち着くことが多い気がします。
この目的を達成するために効果的で適切な手段を選ぶことを忘れずに取り組むことが大切です。
まとめ
腹筋トレーニングをしても腹部脂肪やウエストだけが極端に減ることはない