ストレングストレーニングがトライアスロンのエコノミーに与える影響

2022年4月27日

はじめに

持久系スポーツの競技力向上には持久系トレーニングに加え、レジスタンストレーニング(筋トレ)を並行して行う同時トレーニング(コンカレントトレーニング)が有効です。

コンカレントトレーニングによって持久系パフォーマンスが向上するメカニズムは解明されていない点が多々あります。
しかし、現象としては、コンカレントトレーニングを行うことで、エコノミー・動作効率の改善や最大疾走能力・最大出力の増加が起こることが明らかになっています。

今回はトライアスリートを対象として、持久系トレーニングに加えてストレングストレーニングを実施した際の効果を検証した論文を紹介します。
トライアスリートを対象としてストレングストレーニングの効果を検証した先行研究は散見されますが、今回紹介する論文は競技をシミュレートし、サイクリングエコノミー・ランニングエコノミーを評価した点に新規性があります。

論文概要

出典

Luckin-Baldwin, K. M., Badenhorst, C. E., Cripps, A. J., Landers, G. J., Merrells, R. J., Bulsara, M. K., & Hoyne, G. F. (2021). Strength Training Improves Exercise Economy in Triathletes During a Simulated Triathlon. International journal of sports physiology and performance, 16(5), 663–673. https://doi.org/10.1123/ijspp.2020-0170

方法
30名のトライアスリート(1名はプロ選手)をランダムに下記の2群に割り当て
・エンデュランス・ストレングストレーニング(STR)
・エンデュランストレーニング(CON)
ただし、トレーニング期間中の途中離脱によって最終的なデータ分析対象者はSTRが14名、CONが11名

実験デザインは下記のとおり
トレーニング期間:16週(持久系トレーニングは両群ともに通常通り実施)
測定:0週(ベースライン測定)、14週(中間測定)、26週(ポスト測定)

■ストレングストレーニングの内容(STRのみ)
頻度:2回/週
1-12週:中重量(セット数:3-4セット、反復回数:8-12回、負荷:75%1RM以上)
14-26週:高重量(セット数:3-5セット、反復回数:1-6回、負荷:85%1RM以上)
※13-14週はリカバリー期間

種目:
各セッションで下半身種目を3-4種目、上半身種目を1種目実施
実施種目はハーフスクワット、グルートハムレイズ、ヒップスラスト、シングルレッグプレス、シングルレッグシーテッドカーフレイズ、ヒップフレクション、ヒップダクション(以上、下半身種目)、ベントオーバーロー、ラットプルダウン、ショルダーインターナルローテーション(以上、上半身種目)

収縮時間:3秒(伸張性収縮)/可能な限り早く(短縮性収縮)

■測定
最大筋力:
ハーフスクワット、インデペンデントアームラットプルダウン、シングルレッグシーテッドカーフレイズ、シングルレッグレッグプレスの1RM

形態:皮下脂肪厚(8部位)、体重

トライアスロンシミュレーション:
ベースライン測定の前にランニングとサイクリングの漸増負荷試験を実施し、最大酸素摂取量出現時の走速度(vVO2max)・ワット(wVO2max)を決定
トライアスロンシミュレーションは、1500mスイム(主観的最大努力の85%)、60分サイクリング(60%wVO2max)、20分ランニング(70%vVO2max)で実施
サイクリングとランニングの際は心拍数と呼気ガスの測定を実施(それぞれ最後の1分間のデータを利用)

結果
ベースライン・中間・ポスト測定の群内の比較結果を記載

形態:体重と皮下脂肪厚は両群変化なし

最大筋力:
プレ測定から中間測定にかけてSTRは全種目で増加、CONはスクワットのみ増加
中間測定からポスト測定にかけてSTRは全種目で増加、CONは変化なし

エコノミー:
プレ測定から中間測定にかけてSTRはサイクリングエコノミーが改善
中間測定からポスト測定にかけてSTRはランニングエコノミーに関する指標が改善
CONはサイクリングエコノミー・ランニングエコノミーともに改善なし

解説

この論文は、トライアスリートが持久系トレーニングに加えてストレングストレーニングを並行実施すると、最大筋力が増加したのに加え、サイクリング・ランニング中のエコノミーが向上したことを明らかにしました。
エコノミーの評価は5-10分程度の一定強度運動時の呼気ガスを評価することが一般的ですが、競技をシミュレートした条件で評価している点に価値があります。

サイクリングエコノミーの改善は中間測定で認められたこと(ただし、ポスト測定でさらなる改善は起きなかった)、ランニングエコノミーの改善はポスト測定で初めて認められたことは注目に値します。
ただし、この論文のストレングストレーニングのプログラムは、前半と後半では負荷や反復回数が異なります。
したがって、この結果がトレーニング期間に起因するのか、負荷や反復回数といったレジスタンストレーニングの内容の差によるものなのかは分かりません。

いずれにせよ、実際の競技に近い条件でのエコノミー改善が認められたこの結果は、トライアスリートがストレングストレーニングを行うモチベーションの源になり得ます。

まとめ

トライアスリートはストレングストレーニングの導入によってバイク・ランのエコノミー改善が期待できる