アスリートが良質な睡眠を確保するために求められる食生活についての一考察

はじめに

アスリートが日々のトレーニングや試合、日常生活上のストレスから心身を回復させるためには良質な睡眠の確保が必要不可欠です。
実際、睡眠はトレーニング効果とも密接に関係します。

当サイトではこれまでに、アスリートではない人々を対象として、食生活と睡眠の質との関係を検証した論文を紹介してきました。



一方、アスリートにおいては、日々のトレーニングによる消費エネルギーや疲労が著しいことを踏まえると、一般人とは異なる傾向を示す可能性があります。

そこで今回は、オーストラリアンフットボールのエリート男性選手を対象として食生活と睡眠との関係を検証した論文を紹介します。

なお、オーストラリアンフットボールは、1チーム18人の2チーム間で行われる球技であり、オーストラリアで最も人気のあるスポーツの一つです。

論文概要

出典

Falkenberg, E., Aisbett, B., Lastella, M., Roberts, S., & Condo, D. (2021). Nutrient intake, meal timing and sleep in elite male Australian football players. Journal of science and medicine in sport, 24(1), 7–12. https://doi.org/10.1016/j.jsams.2020.06.011

方法
36名の男性エリートオーストラリアンフットボール選手を対象

栄養データの調査は、2018年のプレシーズンに10日間実施
調査方法は、各自がスマートフォンアプリを用いて写真を撮り、摂取した全飲食物を入力
得られたデータをもとに専用のソフトウェアを用いて栄養分析を実施
評価項目は下記のとおり
1日を通した総摂取エネルギー量
1日を通した・各食事当たり・夜6時以降のタンパク質、脂質、糖質、砂糖、アルコール、カフェイン
夕食あるいは夕食以降の間食と就床時刻との間隔

睡眠データは、手首に装着する活動計とスマートフォンを用いた睡眠日誌によって評価
評価項目は下記のとおり
就床時刻:横になった時刻
起床時刻:目覚めて睡眠を終了した時刻
入眠潜時:就床時刻から入眠までの時間
総睡眠時間:全就床時間から中途覚醒時間を除いた時間
睡眠効率:全就床時間に占める総睡眠時間の割合
中途覚醒時間:睡眠中に目覚めた時間の合計

クロノタイプ(質問紙)とトレーニング負荷(時間×主観的運動強度)を定量

共変量としてトレーニング負荷、前日の総睡眠時間、1日のアルコール摂取量・カフェイン摂取量、練習試合のための飛行機移動、年齢を考慮した上で食生活と睡眠との関連を検証

結果
・1日を通した総摂取エネルギー量は14MJ(約3300kcal)、糖質摂取量は298g(3.4g/kg)、タンパク質摂取量は191g(2.2g)、脂質摂取量は151g(1.7g)
※平均値

・平均の就床時刻は22時40分、起床時刻は7時50分、総睡眠時間は7.9時間、中途覚醒時間は45分、睡眠効率は91%、入眠潜時は5分
※平均値

・1日のタンパク質摂取量が1g(1g/kg)多いごとに睡眠効率は0.01%(0.7%)低下
・1日のタンパク質摂取量が1g(1g/kg)多いごとに中途覚醒時間は0.04分(4分)増加
・1日の総エネルギー摂取量が1MJ(239kcal)多いごとに中途覚醒時間は3分増加

・18時以降の砂糖の摂取量が1g(1g/kg)多いごとに総睡眠時間は0.1分(5分)減少
・18時以降の砂糖の摂取量が1g(1g/kg)多いごとに中途覚醒時間は0.012分(1分)低下
・18時以降の砂糖の摂取量が1g(1g/kg)多いごとに睡眠効率は0.002%(0.2%)増加
・18時以降のエネルギー摂取量が1MJ多いごとに入眠潜時が5分増加
・18時以降のタンパク質摂取量が1g(1g/kg)多いごとに入眠潜時が0.03分(2分)低下

・夕食から就床時刻までの間隔が1時間長いごとに総睡眠時間は8分低下
・夕食から就床時刻までの間隔が1時間長いごとに中途覚醒時間は2分低下
・夕食以降の就床前最後の飲食と就床時刻までの間隔が1時間長いごとに総睡眠時間が6分低下

解説

この論文は、アスリートが良質な睡眠を確保するためには、1日を通した栄養摂取状況のみならず、18時以降の食事が鍵となることを示唆しています。

得られた結果は、夕食あるいは夕食以降の最後の飲食と就床時刻までの間隔が長くなるほど、また18時以降の砂糖の摂取量が多いほど総睡眠時間が短くなることを示しています。
一般に就床直前に食事を摂ることは睡眠を妨げると認識されていますが、この論文では間隔が広がるほど総睡眠時間が減少する逆の傾向が認められました。
論文の著者らは、アスリートの場合、エネルギー消費量が著しいために、食事と睡眠との間が長くなりすぎると、空腹感の増大や満腹感の減少をもたらし、早く目を覚ます可能性を指摘しています。
ただし、就床時間の直前に食事をした場合、消化や深部体温の上昇によって、睡眠を妨げる可能性があることも述べています。

タンパク質については、1日を通した摂取量でみると睡眠に負の影響を与えていました(睡眠効率の低下、中途覚醒時間の増加)。
しかし、18時以降の摂取量は多いほど入眠潜時を低下させるポジティブな影響を与えていました。
これらの結果は、タンパク質を構成するアミノ酸組成の違いが影響した可能性があります。
肉類由来のタンパク質は血漿中の大分子中世アミノ酸に対するトリプトファンの比率(Trp:LNAA)を下げることで、トリプトファンの脳移行を妨げる可能性がある一方、乳製品由来のタンパク質の場合、Trp:LNAAを上げることで、トリプトファンの脳移行を促進する可能性があります。
脳に移行したトリプトファンはセロトニンを生成し、最終的にはメラトニンの分泌を起こすため、眠気を誘発します。
したがって、仮に対象者が18時以降にホエイプロテイン(乳清タンパク質)を摂取した場合には、睡眠を促進する可能性があります。
ただし、この論文ではアミノ酸組成に着目した検証をしていないため、詳細は不明です。

また、総エネルギー摂取量については、1日を通して多いほど中途覚醒時間が、18時以降に多いほど入眠潜時が増加傾向にありました。
一般人を対象とした場合、夕方以降にエネルギー密度の高い食事をとると、消化吸収のために深部体温が高まり、良質な睡眠を妨げるとされています。
したがって、アスリートも18時以降に1日の総エネルギー摂取量の多くを配分するよりも、トレーニング前後も含めて1日を通して万遍なく摂取した方が良いのかもしれません。

この論文は男性系エリート球技アスリートを対象としたため、他のアスリートにどこまで当てはまるのかは分かりません。
また、この論文ではトレーニング負荷や前日の総睡眠時間を共変量として扱っていましたが、アスリートの場合、食生活と睡眠との関係を媒介する因子が複数考えるため、個別の事例ごとに傾向を探りながら食生活を最適化させる必要があります。

まとめ

アスリートの睡眠は食生活の影響を受ける