アスリートに対する睡眠衛生教育の効果とその持続期間

はじめに

当サイトでは、これまでにアスリートと睡眠というテーマの論文を紹介してきました。



また、英国スポーツ医学雑誌に2021年に掲載された論文では、アスリートと睡眠に関して、興味深いレビューがされており、アスリートと睡眠を改善する手段の一つとして、睡眠衛生教育を挙げています。
(出典:Walsh, N. P., Halson, S. L., Sargent, C., Roach, G. D., Nédélec, M., Gupta, L., … & Samuels, C. H. (2021). Sleep and the athlete: narrative review and 2021 expert consensus recommendations. British journal of sports medicine, 55(7), 356-368.)
睡眠衛生教育とは、良質な睡眠を得るために、知識を学んだり、自身の睡眠環境を確認したりすることです。

今回紹介する論文では、プロラグビー選手を対象として、睡眠衛生教育の効果を検証しています。

論文概要

出典

Caia, J., Scott, T. J., Halson, S. L., & Kelly, V. G. (2018). The influence of sleep hygiene education on sleep in professional rugby league athletes. Sleep health, 4(4), 364–368. https://doi.org/10.1016/j.sleh.2018.05.002

方法
24名のプロラグビー選手を対象
競技期に実験を実施

睡眠データは手首装着型活動量計によって計測

最初に、2週間間のベースライン期間を設定
ベースライン期間のデータをもとに、Median split approachによって平均の睡眠時間が短かった12名のアスリートを選出し、睡眠衛生教育を実施
睡眠衛生教育を受けたグループ:介入群
受けなかったグループ:対照群

■睡眠衛生教育の詳細
合計2回のセッション、2週間(1回/週)で実施
セッションは約30分、うち25分が講義、残りの5分が質疑応答・グループディスカッション
講義内容はアスリートにとっての睡眠の重要性、実践的情報、理想的な睡眠衛生のガイドライン

睡眠データは、ベースライン、1回目の睡眠衛生教育実施週(睡眠衛生1)、2回目の睡眠衛生教育実施週(睡眠衛生2)、フォローアップ期間1カ月のうち後半2週間(フォローアップ)の区分で分析

結果
■ベースラインの睡眠時間
介入群(7時間17分)と対照群(7時間49分)で中程度の差あり

■介入群の睡眠衛生1
就床時間(Bed time)が23分、総就床時間(Time in Bed)が25分、睡眠時間が20分(Sleep duration)増加

■介入群の睡眠衛生2
就床時間はベースラインと同等に戻ったが、起床時間が34分遅くなったため、総就床時間はベースラインに比べて長いままを維持
しかし、睡眠効率がベースラインに比べ減少(89.6%→85.4%)したため、睡眠時間はベースラインと同等レベルに戻った

■介入群のフォローアップ
就床時間、総就床時間、睡眠時間はベースラインに戻った

解説

この論文は、プロラグビー選手に睡眠衛生教育を実施すると、一過性に睡眠時間は増えるものの、睡眠衛生教育から1カ月経過すると、その効果は失われることを示しています。
この結果は、プロアスリートを対象としても、良質な睡眠を維持し続けるための教育は簡単でないことを示唆しています。

一方で、そもそも、アスリートにとっての最適な睡眠時間は明確ではありません。
いくつかの文献をもとにすると、少なくとも8時間確保することが基本のようですが、トレーニングや試合での負荷、トレーニングや試合以外の生活状況、遺伝、年齢などによって最適時間は変わるように思います。
また、睡眠負債がない状態で睡眠時間を増やそうとすると、総就床時間は長くなるものの、睡眠効率が下がり、睡眠時間はさほど増えないことも起こりえます。
実際、この論文の介入群の睡眠衛生2の計測結果をみても、総就床時間は増えていましたが、睡眠効率が下がり、睡眠時間も増えませんでした。
したがって、睡眠データをアウトカムとするのではなく、傷害の発生率や競技パフォーマンスとも照らし合わせた上で、最適値を個別に把握していく必要もありそうです。

まとめ

アスリートに睡眠衛生教育を数回しても、その効果はわりと早く消失する模様