例え隔離されたとしても、トレーニング環境が整っていれば、アスリートの精神衛生は好ましいようである

はじめに

新型コロナウイルスは、東京五輪の延期をはじめとして世界中のトップアスリートに多大な影響を与えています。
日本においても、2020年4月に緊急事態宣言が発令された際には、プロ・アマチュア問わず多くの試合が中止・延期を強いられました。
また、ロックダウンや緊急事態宣言といった制限下では、多くのアスリートは自宅での筋力トレーニングや近所を走るといった限られた条件でのトレーニングを強いられます。

今回は、マレーシアでの調査をもとに、COVID-19の感染拡大前、ロックダウン中、隔離キャンプ中のアスリートの主観的なストレスなどを検証した論文を紹介します。

論文概要

出典
Washif, J. A., Mohd Kassim, S. F. A., Lew, P. C. F., Chong, C. S. M., & James, C. (2021). Athlete’s Perceptions of a Quarantine” Training Camp During the COVID-19 Lockdown. Front. Sports Act. Living 2: 622858. doi: 10.3389/fspor.

方法
マレーシアのナショナルアスリート76名を対象(男性53名、女性23名)
マレーシアでは「Road to Tokyo 2020」プログラム下にあるエリートアスリートは、2020年6月の30日間、隔離スタイルのキャンプトレーニング(以下、隔離キャンプ)が許可された
隔離キャンプでは、アスリートはコーチとともにトレーニング施設を利用できるとともに、スポーツ医科学スタッフからのサポートを受けることができた
またアスリートは、移動やメディアの影響なしに質の高いトレーニングや栄養価の高い食事が摂れる環境にあった
ただし隔離キャンプでは、感染リスクを最小限に抑えるために、施設外への移動が制限され、家族・友人から離れる必要があった

アンケート:
質問紙をもとに、感染拡大(ロックダウン)前、ロックダウン中、隔離キャンプ中のアスリートの認識について評価した
アンケートは隔離キャンプの終盤に行われた

質問紙は、下記の6項目で構成
1) アスリートのバックグラウンドとキャンプの評価
2) トレーニングのルーティンとウェルビーイング
3) スポーツ科学サポートへのアクセス
4) 主観的なストレス
5) 睡眠行動
6) ライフスタイル

結果
・ロックダウン中と比べて、隔離キャンプ中ではストレングストレーニング・競技特異的なトレーニング・回復方策(お風呂やマッサージなど)に関する施設へのアクセス、日々の食事の選択、メンタルヘルス、エモーショナルヘルス(感情のコントロール)、トレーニングへのモチベーションに関するスコアが改善した
・主観的なストレスのスコアは、感染拡大前に比べてロックダウン中に増加していたが、隔離キャンプ中では感染拡大前よりも低下していた

解説

この論文は、隔離キャンプ中のアスリートは、コーチやスポーツ医科学スタッフからのサポートを受けられる環境でトレーニングが出来れば、例え家族や友人と普段通りに会えなくても、モチベーションや主観的なストレスには悪影響が少ない(むしろ感染拡大前よりも良い傾向)ことを示唆しています

アスリートも社会の一員であることから、ロックダウンや緊急事態宣言といった社会情勢の中、どこまでトレーニングを優先して良いのかについては様々な考えがあると思います。
それでも、このような隔離キャンプはCOVID-19感染リスクを抑えながらも、アスリートがアスリートとしての仕事に集中して取り組める良いオプションには違いないでしょう。

なおこの論文は、隔離キャンプ中の終盤に実施した一回のアンケート結果をもとにしているため、特に感染拡大前やロックダウン中のスコアについては、想起バイアスが影響している可能性があります。

まとめ

例え家族や友人に会えなくても、アスリートはトレーニングの環境が整っていれば、精神衛生上の問題は少ないようである