新型コロナウイルスに感染したランナーは怪我する可能性が高まる?

はじめに

これまで、新型コロナウイルス(COVID-19)と健康に関する様々な論文を紹介してきました。
これまでに紹介した記事はこちら

今回はランナーを対象として、COVID-19感染経験の有無とランニング傷害との関連を調査した研究をみていきます。

一般に、ランニング障害はオーバーユース(使い過ぎ)によるものが多いとされています。
一方、たとえ短期間であってもトレーニングの中断や日常生活の活動量減少は、筋力低下など身体機能の減弱を誘発します。
身体機能の減弱は、様々なスポーツ競技において、怪我のリスク因子になることが指摘されています。
今回紹介する論文では、トレーニングの中断や日常生活の活動量減少のことをアンダーユース(使わな過ぎ)と表現しています。

COVID-19に感染すると人によって程度は異なれど、一定期間にわたり隔離や自宅待機が必要となり、トレーニングの中断や日常生活の活動量減少を招くことから、アンダーユースに起因するランニング傷害が発生しやすくなる可能性があります。
この論文では、COVID-19感染者と非感染者を対象として傷害の発生率を比較検証しています。

論文概要

出典

Toresdahl, B. G., Robinson, J. N., Kliethermes, S. A., Metzl, J. D., Dixit, S., Quijano, B., & Fontana, M. A. (2021). Increased Incidence of Injury Among Runners With COVID-19. Sports health, 19417381211061144. Advance online publication. https://doi.org/10.1177/19417381211061144

方法
18歳以上で2019年にランニング・トライアスロン大会への出場経験を持つランナーを対象とした電子調査

COVID-19の感染者の判断基準は下記のとおり
1. 医療従事者からCOVID-19に感染している、または感染したことがあると言われた
2. ウイルス検査、鼻腔・唾液スワブ(PCR検査)などのCOVID-19テスト陽性
3. COVID-19抗体テスト陽性

PCR検査の陽性経験を持つランナーを対象とした追加調査として重症度、合併症、ランニング再開後の症状などを質問

ランニング傷害は、2020年3月以降に1週間以上ランニングを控える必要のあった傷害を調査
傷害は、骨、関節、筋・腱・筋膜、神経、その他、不明に分類

年齢、性別、人種、ランニングパターンを考慮したロジスティック回帰分析を実施し、傷害発生とCOVID-19の感染有無との関連を検証

結果
・2278人の回答者のうち選択基準を満たした1947人を分析
(平均年齢:45歳、女性の比率:56.5%)

・123人(6.3%)がCOVID-19の感染者

・427人(21.9%)が2020年3月以降に1つ以上のランニング傷害を経験

・非感染者を1.0とした時の感染者の傷害発生のオッズ比は1.66(95%信頼区間:1.11-2.48)

・感染者のランニング再開後の新しい症状は、息切れ(36.6%)、動悸(9.8%)、胸痛(2.4%)

解説

オッズ比は、ある因子がある結果に関係すると仮定したとき、その因子と結果との関連性の程度を表します。
今回の場合、COVID-19の感染経験とランニング傷害との関連を検証しています(厳密には、3月より前にCOVID-19に感染したランナーが含まれている可能性がある)。

得られた結果は、COVID-19感染はランニング傷害と関連があったことを示しています。

研究デザイン上、因果関係の考察は推察の域を脱しません。
論文の著者らは、COVID-19感染によってしばらくの間、トレーニング負荷が減少したことで、身体がディコンディションしたことが影響している可能性(トレーニングの中断や日常生活の活動量減少に伴い筋力や神経筋のコントロールが低下したと考えられる)を挙げています。

いずれにせよ、フィットネスは急激に増加することは考えにくいため、COVID-19感染といったイレギュラーな事態によってアンダーユース状態に陥った場合、通常以上に身体の反応をチェックしながら、慎重に取り組むことが求められます。

まとめ

COVID-19に感染したランナーはトレーニング再開後の負荷の上げ方に注意すべき