心理的な問題を抱えている太りすぎの人の睡眠中の自律神経活動は食習慣と関連する

はじめに

睡眠不足や睡眠の質が悪い人では食生活の質が低いことや、様々な疾患のリスクが高まることが分かっています。

良質な睡眠は心身の疲労を回復させる働きがあります。
心身の回復度を見積もる指標として、自律神経系の活性状況を評価する心拍変動(Heart rate variability: HRV)という指標があります。
一般にストレス環境下では交感神経系が優勢であり、このとき心拍数は高まり、HRVは減少します。
一方、リラックス状態では副交感神経の活性が高まり、心拍数は減少し、HRVは高まります。

今回紹介する論文は、心理的な問題を抱えている太り過ぎの人を対象として、睡眠中の自律神経活動と食習慣との関連を検証しています。

論文概要

出典

Järvelä-Reijonen, E., Järvinen, S., Karhunen, L., Föhr, T., Myllymäki, T., Sairanen, E., Lindroos, S., Peuhkuri, K., Hallikainen, M., Pihlajamäki, J., Puttonen, S., Korpela, R., Ermes, M., Lappalainen, R., Kujala, U. M., Kolehmainen, M., & Laitinen, J. (2021). Sleep-time physiological recovery is associated with eating habits in distressed working-age Finns with overweight: secondary analysis of a randomised controlled trial. Journal of occupational medicine and toxicology (London, England), 16(1), 23. https://doi.org/10.1186/s12995-021-00310-6

方法
フィンランドの複数の都市で行われた無作為化比較試験のベースライン測定のデータを利用

参加基準は、年齢が25-60歳、BMIが27-34.9kg/m2、心理的な問題を抱えている(General Health Questionnaire, GHQ-12が3/12ポイント以上)、インターネットにアクセスできるコンピュータを有していること
除外基準は、シフトワークや夜間勤務があること、重篤な慢性疾患があること、ペースメーカーを利用していること、HRVに影響を及ぼす薬剤を過去あるいは現在利用していること

データ分析対象者は252人(うち83%が女性)

自由環境生活下での睡眠時の自律神経を専用機器(Bodyguard device, Firsttbeat社)で計測
多くの対象者で三晩のデータを収集
評価項目は、RMSSD(高い方が副交感神経の活性度が高い)とStress Balance(-1から1の範囲で評価、-1から0:回復度が低い、0から0.5:中程度の回復、0.5から1:良い回復、と評価)

下記の項目をアンケートによって定量
・21-item Intuitive Eating Scale(IES)
・Three-Factor Eating Questionnaire(TFEQ-R18)
・Finish Health and Taste Attitude Scales(HTAS)
・Preliminary Finnish Translation of ecSatter Inventory 2.0
・Index of Diet Quality (IDQ)
・Alcohol Use Disorders Identification Test Consumption (AUDIT-C)
・48時間の食事リコール法

その他の評価項目は下記のとおり
性別、教育レベル、婚姻状況、仕事の状況、BMI、主観的なストレス、主観的な仕事能力、睡眠時間

RMSSDとStress Balance(SB)は数値をもとに3群に分類、食習慣のデータとの関連を検証

結果
・SBが高いグループは、低いグループに比べて食べることへの無条件の許可(Unconditional permission to eat)やアルコール消費量が低く、食物繊維の摂取量や食事の質が高かった

・RMSSDが高いグループは、低いグループに比べて直観的な食事(Intuitive eating)を摂っていなかった

解説

この論文は、心理的な問題を抱える太り過ぎな成人を対象として、自由環境生活下での睡眠中の自律神経活動と食習慣との関連を検証しています。
その結果、睡眠中の回復度が高い人では、食生活の質が高いことが示唆されました。

実験室でHRVを測定した先行研究によると、高いHRV(≒RMSSDやSBが高い)は、野菜や果物の摂取量の多さや、地中海食といった健康的な食生活に関連することが示されています。
一般に、自律神経活動の評価は、日中・短時間での測定に比べ、睡眠時の方がノイズが少なく、より制御された状態を評価できるとされています。
したがって、この論文は先行研究の結果を補強するエビデンスと言えます。

直観的な食事のスコア(Intuitive eating)は、HRVが高いグループで低い傾向がありました。
このことは、HRVは高い人では食事に対する柔軟性が低く、空腹感や満腹感などに応じて食べる傾向が少ないことを示唆しています。

直観的な食事については、様々な考えがあり、「自分の直観に従って食事を摂ることは、食べ物との関係が改善されて、自分の身体を大切にできる」といった肯定的な観方もあります。
(引用:Women’sHealth 直感に従って食べる「インテュイティブ・イーティング」って知ってる?https://www.womenshealthmag.com/jp/diet/g33528840/intuitive-eating-changed-my-life-but-dont-ask-me-how-much-weight-i-lost-20200817/

個人的には直観的な食事の是非は、対象者の特徴に依存すると考えています。
この論文の対象者のように過体重や肥満で心理的な問題を抱えている人の場合、直観的な食事を摂り続けた結果、食事の質や身体組成に悪影響が生じていると考えられるため、そもそも直観を正す必要があると思っています。

この論文の結果は、休養(睡眠)と栄養(食事)が健康に及ぼす影響を理解するために非常に興味深い知見です。
一方で、横断研究であること、対象が限定的であること、評価項目がアンケートによるものといった研究の限界が多い点にも注意が必要です。

まとめ

睡眠中の自律神経活動は、太りすぎで心理的な問題を抱えている人の食生活に影響する