新型コロナワクチン接種後の身体反応

はじめに

当サイトでは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大前後にウェアラブルデバイスで計測された健康データがどう変化したのか、紹介してきました。



かつては心拍数などの客観的データは一般人が計測することが困難でしたが、近年ではウェアラブルデバイスによって心拍数、心拍変動、呼吸数といったデータが容易に取得できるようになりました。

今回はファイザー・バイオンテックCOVID-19ワクチン接種後の身体反応をWHOOP社のウェアラブルデバイスで計測した論文を紹介します。

なお、WHOOP社のウェアラブルデバイスは上腕に装着するタイプの機器です。
WHOOP社のウェアラブルデバイスは睡眠時間や睡眠ステージ、心拍数、呼吸数、心拍変動といった生理学的指標について、PSG(研究で信頼性が高いと認められている方法)と比較してある程度の妥当性があることが明らかになっています。

論文概要

出典

Hajduczok, A. G., DiJoseph, K. M., Bent, B., Thorp, A. K., Mullholand, J. B., MacKay, S. A., Barik, S., Coleman, J. J., Paules, C. I., & Tinsley, A. (2021). Physiologic Response to the Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine Measured Using Wearable Devices: Prospective Observational Study. JMIR formative research, 5(8), e28568. https://doi.org/10.2196/28568

方法
健康維持や燃え尽き症候群防止を目的としたトライアルの参加者(研修医)を対象
トライアルでは対象者はWhoop社のストラップ3.0で生理学データを計測

本研究のデータ分析対象者は、ワクチン接種前のデータが十分あり、ワクチン接種後6日間にわたりデータをとれた19名(1回目:18名、2回目13名)

評価項目は下記のとおり
心拍変動(HRV)
呼吸数(RR)
安静時心拍数(RHR)
睡眠時間(Sleep)
急速眼球運動(REM Sleep)
深い眠り(Deep Sleep)

結果
■対象者の特徴
男女比:女性が53%
年齢:28.8歳(26-35歳)
ベースライン(1回目の接種前)の生理データ:
RHR:63.09拍/分、HRV:52.09ms、RR:16.27回/分
※年齢、生理データは平均値

■ワクチン接種後の身体反応
1回目の接種後:
HRVは1・2日後に減少
その他の指標はベースラインと比べて有意差なし

2回目の接種後:
HRVは1日後に減少
その他の指標はベースラインと比べて有意差なし

■ワクチン接種後の睡眠データ
1・2回目の接種後、Sleepは1日後に減少、2-4日後はベースラインと比べて増加
REM SleepとDeep Sleepは個人差が大きかった

■睡眠データとHRVの変化との関係
1回目の接種前7日間の睡眠時間と1・2日後のHRVの変化との間に有意な相関
(睡眠時間が多いほど、HRVの減少が顕著)

解説

この論文の主な結果は、1) ワクチン接種後に自律神経機能の評価指標である心拍変動が減少(≒副交感神経の活性度が低下)、2) ワクチン接種前の睡眠時間が長い人ほど接種後の心拍変動の減少が顕著な傾向、です。

心拍変動の減少は、自律神経からみて心身が緊張状態にあることを示唆しています。
この論文の著者らは、インフルエンザワクチン接種後2日後以内のC反応性蛋白(CRP)の増加はHRVの減少と相関すること、CRPの増加は保護炎症や免疫応答に繋がる可能性があること、といった先行研究の見解をもとに、ワクチン接種後にHRVの変化が著しいほど、免疫応答が強固となる可能性を指摘しています。

また、1回目の接種前の睡眠時間が多いほどHRVの減少が顕著な傾向があった結果をもとに、ワクチン接種の有効性を高めるために摂取前の睡眠時間の確保が重要な可能性を示唆しています。
実際、睡眠不足の状態でインフルエンザやA型肝炎のワクチンを接種すると、抗体価や免疫応答といった反応が鈍ることや、睡眠時間とCOVID-19感染との間に関係があることを踏まえると、睡眠時間がCOVID-19の感染予防に重要には違いありません。

なお、この論文は対象者の人数や実験デザインに研究の限界があり、結果の普遍性は今後の研究動向を見守る必要があります。

まとめ

新型コロナワクチンの免疫応答は接種前の睡眠時間が関係している可能性