正常月経者の月経周期に伴うOura Ringデータの変化

はじめに

Oura Ringは指輪型のウェアラブルデバイスです。
睡眠や心拍数、心拍変動、呼吸数、活動量といった健康データを測定できます。

Oura Ringで測定できる多くのデータは、腕時計型のウェアラブルデバイス(スマートウォッチ)でも測定可能ですが、測定精度に優れることがウリとなっています。

以前、Oura Ringの測定精度を検証した論文を紹介しました。

今回は、正常月経者を対象として、月経周期に伴うOura Ringデータの変化を報告した論文を紹介します。

論文概要

出典

Alzueta, E., de Zambotti, M., Javitz, H., Dulai, T., Albinni, B., Simon, K. C., Sattari, N., Zhang, J., Shuster, A., Mednick, S. C., & Baker, F. C. (2022). Tracking Sleep, Temperature, Heart Rate, and Daily Symptoms Across the Menstrual Cycle with the Oura Ring in Healthy Women. International journal of women’s health, 14, 491–503. https://doi.org/10.2147/IJWH.S341917

方法
■対象者
18-35歳の正常月経者26名

■測定・評価項目
Oura ring(Firmware version 2.43.1)の睡眠・生理データ
主観的体調(睡眠の質、ムード、レディネス、身体症状)

■分析方法
下記フェーズごとに分析
Menses(月経開始後の4日間)
Ovulation(尿検査で確認された排卵初日と翌日の2日間)
Midluteal(尿検査で確認された排卵初日の6日後からの4日間)
Late luteal(月経開始の4日前からの4日間)

結果
■Oura Ringの睡眠データ
総睡眠時間、入眠潜時、中途覚醒、睡眠効率、睡眠ステージは、フェーズごとの有意差なし

■Oura Ringの生理データ
夜間HRは、Midluteal・Late lutealが他2フェーズに比べて高値(約2-3拍/分)

夜間HRV(rMSSD)は、夜間HRと逆の傾向(Midluteal・Late lutealで低値)があったものの、夜間HRに比べると、顕著な傾向ではなかった

夜間体温は、Midluteal・Late lutealが他2フェーズに比べて高値(約0.2-0.3℃)

■主観的体調
ムードのスコアは、Mensesに比べてMidlutealで悪い傾向、Ovulationに比べMidluteal Phaseで悪い
身体症状のスコア(痛み、膨満感、圧痛など)は、Mensesが他の3フェーズに比べて、高い(多い)傾向

解説

月経周期は、生殖ホルモンの複雑な相互作用の影響を受けます。
典型的な月経周期は28日であり、月経初日は卵胞期(Follicular phase)の始まりで、エストロゲン(卵胞ホルモン)・プロゲステロン(黄体ホルモン)の濃度は低い一方、卵胞期ではエストロゲン分泌を刺激する卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)の濃度が上昇し始めます。
その結果、排卵の頃にはエストロゲンがピークを迎え、排卵後の黄体期(Luteal Phase)ではプロゲステロンが多くなります。

このような月経周期に伴うホルモン濃度の変化は、生理的にも影響を与えます。
卵胞期と比べて黄体期では、プロゲステロンの上昇に伴い、安静時の体温や心拍数が上昇します。
一方、体温を下げる作用のあるエストロゲンが多く分泌される排卵前後のタイミングでは体温は低下します。

論文で報告されたOura Ringの生理データは、このような一般傾向を鋭敏に捉えており、Oura Ringの精度の良さを伺わせるものでした。

一方、睡眠データは、生理データに比べると月経周期に伴う変化が観察されませんでした。
この原因としては、睡眠は月経周期以外の要因による影響を受けやすいことや、測定精度が生理データに比べると劣ることが考えられます。
実際、今年(2022年)に発表された論文によると、Oura Ringを含む4つの市販デバイスの睡眠データの精度を検証した結果、睡眠・覚醒に関するデータ(総睡眠時間、総睡眠時間、入眠潜時、中途覚醒、睡眠効率)はある程度の妥当性が認められた一方で、睡眠ステージのデータはばらつきが大きかったとされています。
(引用:Chinoy, E. D., Cuellar, J. A., Jameson, J. T., & Markwald, R. R. (2022). Performance of Four Commercial Wearable Sleep-Tracking Devices Tested Under Unrestricted Conditions at Home in Healthy Young Adults. Nature and science of sleep, 14, 493–516. https://doi.org/10.2147/NSS.S348795)

まとめ

Oura Ringの心拍数・体温データは月経周期に伴う変化を捉えられる