一晩の睡眠不足がサイクリングパフォーマンスに及ぼす影響

はじめに

アスリートやスポーツ愛好家にとって、睡眠不足はパフォーマンス悪化や傷害発生のリスクを高めるなど、マイナスに働きます。

睡眠不足とパフォーマンスに関する研究は沢山存在するものの、細かな実験条件(睡眠不足の程度、前日の運動の有無、運動条件など)によって結果も変わってくるため、色々な研究結果をもとに、その都度整理しながら見ていくことが大切です。

今回紹介する論文では、サイクリストを対象として、トレーニングをした上でその日の睡眠時間を3時間に制限した場合、翌日のパフォーマンスにどれぐらい影響を及ぼすのか、パフォーマンス発揮時間の違いも考慮しながら調べています。

論文概要

出典

Dean, B., Hartmann, T., Wingfield, G., Larsen, P., & Skein, M. (2023). Sleep restriction between consecutive days of exercise impairs sprint and endurance cycling performance. Journal of sleep research, 32(5), e13857. https://doi.org/10.1111/jsr.13857

方法
10名の男性サイクリストを対象

本実験開始前にアクチグラフィー(右手首装着)や睡眠日記の測定・記録、サイクリングに関する運動負荷試験への慣れ期間を設けた

■実験デザイン
通常条件(CONT)と睡眠制限条件(RES)の二条件によるカウンターバランスの半ランダム化試験
運動負荷の1日目と2日目の間の睡眠を下記のようにコントロール
CONT:午後10時就寝、午前6時起床(8時間睡眠)
RES:午前3時就寝、午後6時起床(3時間睡眠)

■運動負荷
・1日目
5分間のウォームアップ
90分間のサイクリング(最大心拍数の60%を基本とし、12分毎に2-3分のインターバルセッションを最大心拍数の75-90%で実施)

・2日目
5分間のウォームアップ
30分間のサイクリング(最大心拍数の60%)
2本×6秒スプリント
4分タイムトライアル
20分タイムトライアル

■測定項目
睡眠データ(総睡眠時間、中途覚醒、覚醒回数、主観的な睡眠の質)
パフォーマンスデータ(ピークパワー、平均パワー)
運動生理学データ(心拍数、主観的運動強度、血中乳酸、血糖値)
主観的健康度(修正されたPOMS、疲労、眠気、気分、筋痛、ストレス)

結果
※数値は平均値
・睡眠データ
総睡眠時間(RES:163分、CONT:434分)、睡眠潜時(RES:14分、CONT:25分)、中途覚醒時間(RES:5.5分、21.7分)に有意差あり

・パフォーマンスデータ
6秒スプリントのピークパワーは1回目に有意差あり(RES:1120W、CONT:1241W)
4分タイムトライアルの平均パワーは群間差なし
20分タイムトライアルの平均パワーは有意差あり(RES:237W、CONT:254W)

・運動生理心理学データ
心拍数、血中乳酸、血糖値はどのタイミングでも群間差なし
主観的運動強度は20分タイムトライアルの18分経過時(CONTの方が高い)を除き、群間差なし

・主観的健康度データ
疲労、睡眠の質、筋痛、ストレス、気分の合計値は2日目の運動前でRESの方が低い(悪い)

解説

この論文は、サイクリストを対象として、トレーニングをした日の睡眠時間を3時間に制限すると、翌日の短時間(6秒)と長時間(20分)のパフォーマンスが低下することを明らかにしました。

サイクリング中の生理学的データには条件間での差がほぼなかったものの、発揮パワーがRES条件で低かったことを踏まえると、同一パワーに対する生理学的負荷が睡眠制限条件で高くなっていたと考えることが出来ます。

一般的に、短時間運動では、睡眠不足の影響が生じにくい(パフォーマンスが低下しにくい)と考えられています。
しかし、この論文では6秒スプリントのピークパワーにも低下が認められました。
論文の著者らは、この原因の可能性として、スプリントの前に30分間のサイクリングを行っていたことや、前日に90分の運動を行っていたことが影響している可能性があると指摘していました。

一時的な睡眠不足が運動に与える影響は、心拍数などの生理学的側面よりも、主観的運動強度などの主観的側面に大きな影響を与えると感じています。
また、睡眠不足以外にも、筋力トレーニングによる筋肉のダメージ、認知的負荷やスマートフォンの過度な使用によるメンタル疲労なども、主観的運動強度を高めることが知られています。
こうしたストレスフルな状態を避けることは、トレーニングを継続する上で重要だと思います。

まとめ

睡眠不足はサイクリングパフォーマンスを悪化させる