新型コロナウイルスによるロックダウンが睡眠と安静時心拍数に及ぼす影響

2022年4月1日

はじめに

当サイトではこれまでに新型コロナウイルス(COVID-19)が健康に及ぼす影響について、様々な観点から論文をもとに述べてきました。

今回はCOVID-19の感染拡大防止対策として行われたロックダウンや外出制限といった政策によって人々の睡眠や安静時心拍数がどう変化したのかを検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Ong, J. L., Lau, T., Karsikas, M., Kinnunen, H., & Chee, M. (2021). A longitudinal analysis of COVID-19 lockdown stringency on sleep and resting heart rate measures across 20 countries. Scientific reports, 11(1), 14413. https://doi.org/10.1038/s41598-021-93924-z

方法
対象者は2019年から2020年にかけてOura Ringを利用していたユーザー
20ヶ国(オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、アメリカ、イギリス等)、113,000ユーザーのデータが分析対象

COVID-19後の感染拡大後の2020年1-7月と2019年1-7月のデータを比較

評価指標は下記の3つ
・Midsleep time…就寝時間と起床時間の中間点
・Midsleep variability…Midsleep timeの変動、睡眠の規則性を表す指標
・安静時心拍数…睡眠期間中の5分間隔の心拍数の平均値

Oura Ringアプリに入力された自己申告の年齢とBMIを共変量として、国別や月毎の数値の変化、安静時心拍数の説明要因を分析

結果
・2019年と比べ2020年ではMidsleep timeは遅くなり、Midsleep variabilityと安静時心拍数が減少
→これらの傾向はロックダウンや外出制限などの政策が厳しい国ほど顕著
→これらの傾向は多くの国で最も制限が厳しかった4-5月で顕著、規制が緩くなった6月以降は徐々に2019年の傾向に近づいた

・2019年から2020年にかけての安静時心拍数の変化は2020年の睡眠時間、Midsleep timeの変化、Midsleep variabilityの変化によって約75%が説明
→このうち、Midsleep variabilityの変化が最も強力な予測因子

解説

このデータは、20ヶ国に住む10万人以上のOura Ringユーザーを対象として、COVID-19が睡眠や安静時心拍数に及ぼす影響を検証した結果、ロックダウンや外出制限といった政策によってMidsleep timeが遅くなり、Midsleep variabilityと安静時心拍数が減少したことを示しています。

このうち、Midsleep timeの遅延については、COVID-19の感染拡大防止による各種の政策によって就寝時間と起床時間の両方あるいはいずれかが遅くなったことを示しています。

Midsleep variabilityは、睡眠の一貫性を示す指標です。
一般的に在宅勤務を行っていない労働者の多くは、通勤時間の関係で平日と休日の起床時間や就寝時間に差が生じることが多いです。
したがって、COVID-19の感染拡大によって、在宅勤務が普及したことが、Midsleep variabilityの減少に関係していると考えられます。

安静時心拍数は、心血管イベントや全死亡率といった健康指標や、体力や心身のストレス度とも関係し、通常は低い方が良好な健康状態にあると評価します。
このデータは、COVID-19の感染拡大によって人々の安静時心拍数が減少したこと、またその減少は睡眠データの中でも特にMidsleep variabilityが関係していたことを示しています。
かねてより、睡眠の一貫性は心身の健康を保つために重要であることが言われてきましたが、このデータもその見解を指示しています。

当サイトでこれまでに紹介した論文で明らかになっているように、COVID-19の感染拡大は多くの人の身体活動量を減らしました。
しかし、今回のデータが示すようにCOVID-19の感染拡大防止を目的とした各種の政策は、人々の健康度に部分的にはポジティブな影響を与えている面もあります。
良い面は前向きにとらえ、身体活動量の減少はできる工夫を取り入れることによってコロナ過でも健康度を高めることは可能だと言えます。

まとめ

新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とした各種の政策は、睡眠の一貫性を高め、安静時静時心拍数を減らした