持久系アスリートにおけるストレングストレーニングの効果は脱トレーニング後もしばらく持続する可能性~その2~

はじめに

以前、男性サイクリスト10名を対象とした論文をもとに、「持久系アスリートは数週間(少なくとも6週間)であれば、ストレングストレーニングを中断してもパフォーマンスへの負の影響はなさそう」と記しました。

今回は、同じ持久系アスリートでも、サイクリストではなくてランナーを対象として、同様のことを示唆した論文を紹介します。

紹介する論文は、下記の2010年に発表された論文の実験に新しい分析を加えたものです。

Berryman, N., Maurel, D. B., & Bosquet, L. (2010). Effect of plyometric vs. dynamic weight training on the energy cost of running. Journal of strength and conditioning research, 24(7), 1818–1825. https://doi.org/10.1519/JSC.0b013e3181def1f5

論文概要

出典

Berryman, N., Mujika, I., & Bosquet, L. (2020). Effects of Short-Term Concurrent Training Cessation on the Energy Cost of Running and Neuromuscular Performances in Middle-Distance Runners. Sports (Basel, Switzerland), 9(1), 1. https://doi.org/10.3390/sports9010001

方法
実験では対象者を下記3群に割り当て
・プライオメトリックトレーニング群(PT群)
・動的ウエイトトレーニング(DWT群)
・対照群

コンカレントトレーニング(持久系トレーニング+ストレングストレーニング)の期間は8週間
その後のストレングストレーニングの脱トレーニング期間は4週間

脱トレーニング期間終了までドロップアウトせず本論文の対象者となった対象者はPT群4名、DWT群4名の計8名(全員男性)
対象者はアマチュアレベルのランナー
全員がストレングストレーニングの経験がなかった

■トレーニング
コンカレントトレーニングの期間中、PT群とDWT群は通常のランニングトレーニングに加えて、週1回の爆発的なトレーニングセッションを実施
負荷は両グループ同等、3-6セット×8回
PT群は垂直跳びのパフォーマンスを最適化するドロップジャンプ
DWT群はコンセントリック局面のみのジャンプ
ピークパフォーマンスの95%(DWT群はピークパワーに対して、PT群は垂直跳びの跳躍高に対して)の強度で実施するように各反復後にフィードバックを提供

ランニングトレーニングはグループ間で均等で週3回

■測定項目
最高酸素摂取量(VO2peak)
エネルギーコスト(Cr)
力-速度関係を計測するためのスクワットテスト
垂直跳び
3000mタイムトライアル

結果

■ランニングエコノミー(Cr)
コンカレントトレーニング後にmoderateな改善、脱トレーニング後もその効果が維持
群別にみると、コンカレントトレーニング後ではPT群がLarge、DWT群がsmallの改善
プレから脱トレーニング後ではPT群がsmall、DWT群がmoderateの改善

■力-速度テスト中の最大パワー
コンカレントトレーニング後にsmallな改善、脱トレーニング後もその効果が維持
DWT群はコンカレントトレーニング後・脱トレーニング後もmoderateな効果
PT群はコンカレントトレーニング後ではTrivial、脱トレーニング後ではsmallな低下

 

■垂直跳びの跳躍高
コンカレントトレーニング後にsmallな改善、脱トレーニング後もその効果が維持
DWT群はコンカレントトレーニング後がsmallな改善、脱トレーニング後がtrivialな変化
PT群はコンカレントトレーニング後・脱トレーニング後もsmallな改善

■そのほか
3000mタイムトライアルは、コンカレントトレーニング後も脱トレーニング後もsmallな改善

解説

10年以上前に発表された論文の実験データを使った興味深い報告です。
論文の著者らも指摘している通り、色々な限界があるものの、このテーマに関する利用可能な学術的資料が少ない現状を踏まえると、参考になる論文です。

得られた結果は、コンカレントトレーニングによって獲得したランニングエコノミーの改善やランニングパフォーマンスの向上といった効果は、ストレングストレーニングを4週間辞めた後もほとんど維持されることを示唆しています。

また、神経筋系のパフォーマンスは、ストレングストレーニングの手段に特異的でした。
具体的には、PT群は垂直跳びの跳躍高が改善したのに対し、DWT群はスクワットの最大パワーが改善していました。
そして、これらの改善効果もストレングストレーニングを4週間辞めた後も維持されていました。

前述した論文の結果も踏まえると、レース前の調整期間中はストレングストレーニングを行うのか迷ったら、やらなくても良いのかなと言えそうです。

まとめ

ランナーがストレングストレーニングをすることによって得られた効果はストレングストレーニングを4週間辞めても維持される