持久系トレーニングの強度分析の方法による違い

はじめに

持久系トレーニングの効果に影響する因子として、トレーニング強度の配分があります。
ここでの強度とは、心拍数や血中乳酸濃度、主観的運動強度などをベースにいくつかのカテゴリーに分けられた運動の激しさのことです。

強度の配分を分析する方法としては、トレーニング時間を細かく分析するTime In Zone(TIZ)法、そのトレーニングの目的をもとに判断するSession Goal(SG)法、TIZとSGを組み合わせたSG/TIZ法が代表的です。

今回紹介する論文では、エリート持久系アスリートを対象として、3つのトレーニング強度の分析方法を比較しています。

論文概要

出典

Sylta, O., Tønnessen, E., & Seiler, S. (2014). From heart-rate data to training quantification: a comparison of 3 methods of training-intensity analysis. International journal of sports physiology and performance, 9(1), 100–107. https://doi.org/10.1123/IJSPP.2013-0298

方法
ノルウェーのナショナルチームに所属するクロスカントリースキー選手29名を対象

データ収集は高地トレーニングキャンプ期間中に実施(日数:8-18日)
合計570のトレーニングデータを分析(うち血中乳酸濃度の測定は380)

ノルウェーの持久系アスリートは通常、5つのゾーンの有酸素性強度スケールを利用
対象者は漸増負荷試験中の血中乳酸濃度や心拍数の応答をもとに、5ゾーンでトレーニングを報告
本研究では、5ゾーンのデータを3ゾーン(Zone1:VT1/LT1未満、Zone2:VT1/LT1-VT2/LT2、Zone3:VT2/LT2超え)に変換して利用

3つの分析方法の詳細
■TIZ
各セッションの心拍数を1秒ごとに分析し、各ゾーンに割り当て

■SG
各セッションの主目標をもとに、各ゾーンに割り当て
Zone2・Zone3のインターバルトレーニングは、心拍数や血中乳酸濃度の測定によって判断
Zone2・Zone3の持続的トレーニングは、Zone2もしくはZone3の累積時間が15分を超えた場合にそのゾーンでのトレーニングと判断

■SG/TIZ
TIZとSGのハイブリッド
インターバルトレーニングは、セッションの目標と実際の心拍数や血中乳酸濃度をもとに判断
インターバルトレーニングの休息期は、アクティブだった場合のみZone1として分類
持続的トレーニングは、数分以上Zone2もしくはZone3であった場合にそのゾーンでのトレーニングと判断

結果
各分析方法の強度の配分結果(平均値)
■TIZ
Zone1:96.1%、Zone2:2.9%、Zone3:1.1%
■SG
Zone1:86.6%、Zone2:11.1%、Zome3:2.4%
■SG/TIZ
Zone1:95.5%、Zone2:3.6%、Zone3:0.8%

2つのゾーン(低強度:Zone1、高強度:Zone2、Zone3)に分けた際の分析方法間の変換係数
TIZもしくはSG/TIZ→SG:低強度が×0.9、高強度が×3.0
SG→TIZもしくはSG/TIZ:低強度が×1.1、高強度が×0.33

解説

持久系アスリートのトレーニング強度の配分は、ここ数十年にわたり、高い関心が寄せられています。
しかし、少なからずの指導者や選手は、強度の分類に関する理論的背景や分析方法に違いを正確には理解していません。

この論文は、エリート持久系アスリートを対象として、代表的な3つの分析方法による分析結果の違いを報告しています。

また、TIZもしくはTIZ/SGとSG間の比較ができるように変換係数も算出しているため、異なる方法で分析された研究や実践現場のデータを比較する際の参考になります。

なお、この論文ではNorwegian Olympic Federationが使っている強度分類表をベースに強度が割り当てられていました。
具体的には、血中乳酸濃度でみると2.5mmol/Lまでが低強度、4.0 mmol/Lまでが中強度、心拍数でみると82%最大心拍数までが低強度、87%までが中強度でした。
この強度分類はあくまでもエリート持久系アスリートを対象とした場合に当てはまり、レクリエーショナルレベルの場合、相対強度がより低くても中強度もしくは高強度に相当する可能性があります。

まとめ

トレーニング強度の分析結果は方法によって当然に異なる