持久系アスリートが伸び悩んだ時のトレーニング

はじめに

持久系スポーツに取り組むアスリートの中には、毎年のようにパフォーマンスを伸ばし続ける者もいますが、競技力が停滞する選手もいます。

伸び悩んだときに、同じトレーニングを続けるのか、異なるアプローチを取り入れるのとでは、どちらが良いのでしょうか。
この問いに対する答えは、個別に異なり、一概には言えませんが、今回紹介する論文は一つの洞察を提供してくれます。

紹介する論文では、クロスカントリースキー選手を対象として、2年間にわたるトレーニング、生理学指標、競技成績を報告しています。
この論文では、1年目で生理学指標・競技成績が向上した者は2年目も同じトレーニング戦略を採用していました。
一方、1年目で向上が起きなった者は2年目のトレーニング戦略を変更していました。

論文概要

出典

Gaskill, S. E., Serfass, R. C., Bacharach, D. W., & Kelly, J. M. (1999). Responses to training in cross-country skiers. Medicine and science in sports and exercise, 31(8), 1211–1217. https://doi.org/10.1097/00005768-199908000-00020

方法
14名のクロスカントリースキー選手を対象
対象者は年間で660時間のトレーニングを積むエリートアスリート

1年目のトレーニングはシーズンによって変動があるものの、低強度中心のトレーニング戦略を採用
1年目の生理学指標(VO2max、VO2閾値)・競技成績(United States Ski Association Points: USSA points)が向上した7名は、2年目も同じトレーニング戦略を採用(コントロール群)
1年目の生理学指標・競技成績が向上しなかった7名は、2年目は低強度を減らし、高強度を増やしたトレーニング戦略を採用(トリートメント群)

生理学指標の測定は年間3回実施(基礎持久力期、競技前期、競技期)

結果
1年目と2年目のUSSA Pointsの変化は次のとおり
コントロール群:16.7→14.4
トリートメント群:26.6→13.2
1年目ではトリートメント群の競技成績が悪かったものの、2年目はコントロール群と同等の競技成績
また、コントロール群は1年目から2年目にかけて競技成績がほぼ向上しなかった

コントロール群の生理学指標は1年目に基礎持久力期から競技期にかけて向上したものの、1年目と2年目で差がなかった
トリートメント群の生理学指標は1年目に向上しなかったものの、2年目は基礎持久力期から競技期にかけて向上した

コントロール群の年間のトレーニング量は1年目に比べて2年目に6%増加したが、高強度のトレーニング量は変化がなかった(総トレーニングの16-17%が高強度)
トリートメント群は年間のトレーニング時間は変化がなかったものの、低強度が36%減り、高強度が136%増えた(100時間→236時間)

 

解説

この論文は、高い全身持久力が要求されるクロスカントリースキー選手を対象として、1年目に生理学指標・競技成績が向上した者が2年目も同様のトレーニング戦略をした結果、さらなる向上が得られなかったことを示しています。
一方で、2年目に生理学指標・競技成績が向上しなかった者が2年目にトレーニング戦略を変更した結果、生理学指標・競技成績が向上していました。

2年目に生理学指標・競技成績が向上した理由は、強度の配分の変更によるものなのか、量×強度で表される負荷が高まったからなのか、この論文からでは分かりません。

また、2年目に伸びが停滞した者は、強度の配分は変えずに負荷をより増やした場合や、強度の配分を変更して負荷を増やした場合にさらなる向上が得られたのかも分かりません。

トレーニング実験の結果を活用するには確かな知識・見識が求められますが、この論文は「1年間続けてパフォーマンスが伸びなかったら、アプローチを変える」必要性を示唆しています。

まとめ

持久系アスリートは競技力が停滞した翌シーズンはトレーニング戦略を変えた方がよいかもしれない