スイマーの連日にわたるトレーニングの回復に水風呂(CWI)が与える影響

2023年12月1日

はじめに

競技者と呼ばれるアスリートの多くは、トップのパフォーマンスを発揮するためにトレーニングを日々実施しています。
これらのトレーニングはしばしば高い負荷をかけ、筋力や持久力を向上させるために行われます。

しかし、負荷の高いトレーニングに身体が適応するには、適切な回復が不可欠です。
十分な休息と回復がないと、トレーニング効果が低下し、むしろ怪我のリスクが高まることがあります。

回復を促進するためのアプローチはさまざまです。
例えば、適切な栄養素を摂取し、身体に必要なエネルギーと栄養を供給することや、適切な睡眠を確保し、ストレスを軽減することは代表的なアプローチです。
その他にも、様々な食品、物品、施設などを利用した回復アプローチがあります。

今回紹介する論文では、競技力の高い競泳選手たちを対象として、水風呂(Cold Water Immersion: CWI)の効果を検証しています。

論文概要

出典

Al Haddad, H., Parouty, J., & Buchheit, M. (2012). Effect of daily cold water immersion on heart rate variability and subjective ratings of well-being in highly trained swimmers. International journal of sports physiology and performance, 7(1), 33–38. https://doi.org/10.1123/ijspp.7.1.33

方法
全国レベル以上の競泳選手8名を対象
全員がナショナルチームへの参加経験あり
専門は、50-200m

実験はランダム化クロスオーバーデザイン(5日間×2条件)
実験前の2週間は休息と軽負荷のトレーニング(各1週)

実験期間中は、月~金にかけて合計13回の専門的トレーニングと3回のストレングストレーニングを実施
トレーニング後にSession RPEを調査
トレーニング負荷は、Session RPE×トレーニング時間として定量

■介入
介入週
各日のトレーニング後に下記のプロトコルでCWIを実施
時間:5分
水温:15度
姿勢:座位
深さ:胸骨中線

対照週
同時間を同姿勢で過ごしたが、浸水はなかった

■評価指標
・自律神経系
朝(その日の最初のトレーニングの前)に仰臥位で測定
Ln rMSSDと平均R-R Intervals(mRR)を定量
2日間の休息日を挟んだ後の最初の測定値(月曜日の朝)をその週の基準値として採用

・主観的回復度系
自律神経系の測定前に下記の項目を1-7段階で調査
睡眠の質、ストレス、筋痛、疲労
最初の測定値をその週の基準値として採用

結果
■トレーニング負荷
両群のトレーニング負荷に明確な差なし

■自律神経系
・Ln rMSSD
対照群と比べて、介入群の効果は2日目以降で有益だった
・mRR
対照群と比べて、介入群の効果は3・4日目で有益だった

■主観的回復度系
・筋肉痛
両群ともに1日目に比べると2日目以降で著しかった
群間比較では、介入群の2日目が少なかった

・睡眠の質
介入群は1日目に比べて2-4日目で優れていた
対照群は1日目に比べて、2-5日目で悪くなった
群間比較では介入群では2日目、3日目、4日目で優れていた

・疲労
対照群は1日目に比べて、2・4・5日目で悪くなった

・ストレス
顕著な変化なし

解説

この論文は、競技力の高い競泳選手を対象として、日々のトレーニング後の10分間の水風呂(CWI)が自律神経系や主観的回復度(特に睡眠の質)からみたリカバリーを促進することを示唆しています。

論文の著者らは、自律神経系への影響について次のような考察をしています。

CWIは静水圧により胸部血管系への体液シフトを誘発し、それにより中心血液量、脳卒中量、心拍出量、中心静脈圧を増加させる。
そして中心血液量の増加は、動脈圧反射を刺激し、副交感神経活動を増加させると考えられている。
先行研究によると、CWI後少なくとも1時間は末梢血管収縮(そして推論すれば中心血液量も)が持続することを報告した。
しかし、中枢の血液量がCWI後12時間上昇したままで、朝の副交感神経活動の増加を説明できたかどうかは、今回の研究デザインでは検討できない。

とてもしっくりくる考察です。
また、もう一つ、血中の代謝産物の除去への効果についても触れていますが、この影響もCWIを実施した比較的直後に限定されるため、翌日の朝の自律神経系に影響を及ぼすかというと、クエスチョンです。

この研究はメカニズムを明らかにしたものではありません。
それを認識した上で、直後ではなく、翌日の朝のコンディションに影響を与えた点、1日ではなく連日にわたり介入し続けた点は価値が高いと言えそうです。

一方で、慢性的なCWIはトレーニング効果の適応を減弱させるという指摘もいくつかあるので、多用することにも注意が必要です。

まとめ

トレーニング後の5分間の水風呂は回復を促進させる可能性