筋トレ後のリカバリーに要する時間は若年トレーニーとマスタートレーニーで異なるのか?

はじめに

年齢とリカバリーとの関係には、様々な見解があります。
一般的には加齢に伴い運動トレーニング後のダメージが著しく、回復に要する時間も長くなると認識されているようです。

実際、加齢に伴い筋タンパクの合成速度は低下します。
一方で筋タンパクの合成速度といった急性応答と慢性的な身体応答(たとえばトレーニング効果)は必ずしも相関しません。
したがって、リカバリーについても筋タンパクの合成速度が劣ることが回復を遅延させるという直接の証拠にはなりません。

この分野でしばし問題となるのが、中高齢者は若年者に比べて普段のトレーニング負荷が低いことが多い上、筋力やフィットネスといった体力にも差がある場合がほとんどです。
したがって、中高齢者のリカバリーが遅延するというデータが存在しても、純粋に加齢による影響なのか、トレーニング状況や体力の違いによる影響なのか、判断が難しい場合があります。

今回は、トレーニング状況、筋力が同程度の若年アスリートとマスターアスリートを対象として、スクワットエクササイズ後のリカバリーを検証した論文を紹介します。
この論文は、アスリートやトレーニーで用いられることの多い冷水浴とコンプレッションタイツのリカバリー効果にも着目しています。

論文概要

出典

Schmidt, J., Ferrauti, A., Kellmann, M., Beaudouin, F., Pfeiffer, M., Volk, N. R., Wambach, J. M., Bruder, O., & Wiewelhove, T. (2021). Recovery From Eccentric Squat Exercise in Resistance-Trained Young and Master Athletes With Similar Maximum Strength: Combining Cold Water Immersion and Compression. Frontiers in physiology, 12, 665204. https://doi.org/10.3389/fphys.2021.665204

方法
若年アスリート8名(平均年齢:22歳)とマスターアスリート8名(平均年齢:52歳)を対象(全員が男性)
対象者は、ハーフスクワットの最大挙上重量(1RM)が体重の120%以上であった上、週2回以上のレジスタンストレーニングを過去1年以上にわたり実施していた

慣れ試行後、ランダムに下記2条件の本試行を実施(試行間:2週間)
・Mixed-method Recovery(MMR)
・Passive Recovery(PR)

本試行ではスクワットの前、直後、24時間後、48時間後、72時間後に回復指標を測定

スクワットの方法は下記のとおり
種目:スミスマシンを用いたハーフスクワット
重量:70%1RM
セット数:10セット
反復回数:9セットまでは8回、10セットはTraining to failureまで
収縮時間:4秒(伸張性収縮)/2秒(短縮性収縮)
休息時間:3分(セット間)

MMRの詳細:
スクワット後に冷水浴(Cold Water Immersion: CWI)を実施
CWIは12±1度の水温で15分、首より下の全身を浸水
CWI後はフルレングスのコンプレッションタイツ(平均圧18-21mmHg)を48時間後まで着用
なお、シャワーを浴びる時や測定時にはコンプレッションタイツを着用しなかった

回復指標の項目は下記のとおり
・ハーフスクワットとレッグプレスの最大随意等尺性収縮トルク(MVIC)
・筋の収縮特性(膝関節伸展筋群への電気刺激)
・垂直跳びの跳躍高
・血中乳酸濃度、クレアチンキナーゼ
・筋肉痛、主観的身体パフォーマンス能力

結果
・全回復指標で時間による主効果あり
→スクワットエクササイズ後に変化し、その後は徐々に回復

・全回復指標で若年アスリートに比べてマスターアスリートの回復が遅延する傾向はなかった

・スクワットエクササイズ直後の血中乳酸濃度、筋肉痛、主観的パフォーマンス能力の変化は若年アスリートで顕著

・筋肉痛と主観的身体パフォーマンス能力の回復は、PRよりMRで早かった

解説

次の二点がユニークな論文です。
1) 筋力やトレーニング状況が均等で年齢が異なるトレーニーを比較
2) CWIとコンプレッションタイツという組み合わされたリカバリー法(MMR)の効果を検証

得られた結果は、若年アスリートに比べて、マスターアスリートはスクワットエクササイズ後の回復が遅延しなかったことを示しています。
この結果を踏まえると、少なくとも50歳程度までは、トレーニングを積めてさえすれば、若年アスリートと比べて回復が遅延することはないのかもしれません。

MMRとPRの差をみると、主観的指標(筋肉痛、主観的パフォーマンス能力)には差がありましたが、筋力や筋の収縮特性、クレアチンキナーゼといった客観的指標には差がありませんでした
この点について、論文の著者らはいくつかの考察をしていましたが、遺伝やその他の要因(睡眠、心理学的ストレス、身体活動、食事)の方がリカバリーに著しい影響を与える可能性を指摘していました(なお、この実験では食事についてはある程度統制されていました)。
実際、CWIあるいはコンプレッションタイツの回復効果を検証した他の論文を眺めると、主観的指標には効果があっても、客観的指標には効果が認められないものが複数あります。
さらに論文の著者らは、個人の応答の差をもとにリカバリー方策の有効性は、個人の好みや信念によって異なる可能性も指摘してしました。
個人的には特に主観的指標は、「信じる者は救われる」傾向が強い気がしています。

こういったリカバリー方策は、トップアスリートが利用している等の事情やセンセーショナルなキャッチコピーによって時に注目を集めますが、この論文の結果が示唆するとおり、基本的には過度な期待はできないと考えます。
当たり前ですが強い選手が利用している=優れたエビデンス、とはならないことを認識しなければなりません。

まとめ

筋力やトレーニング状況が均等であればスクワット後の回復は若年アスリートとマスターアスリートで変わらない