食後血糖値上昇を抑えるために適した運動は?

はじめに

食後高血糖とは食事をして高くなった血糖値が2時間後も正常値に戻らない状態のことです。
食後高血糖は炎症性サイトカインの分泌を活性化することで血管内皮機能障害を引き起こし、将来の動脈硬化に繋がる要因となります。
そのため近年では空腹時血糖値ではなく、食後血糖値の上昇を抑えるための運動効果について様々な検証がされています。

今回は労働者に与えられる一般的な昼休みの時間を考慮し、運動、休息、昼食を合計して1時間という枠組みで、運動の種類とタイミングが食後血糖値に及ぼす影響を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Yoko, N., Hiroshi, Y., & Ying, J. (2021). Type and timing of exercise during lunch breaks for suppressing postprandial increases in blood glucose levels in workers. Journal of occupational health, 63(1), e12199. https://doi.org/10.1002/1348-9585.12199

方法
参加者は20歳以上の労働者15名であったが、4名が途中離脱したため分析対象者は11名
分析対象者の特徴は下記のとおり
性別:男性5名・女性6名
職業:教師8名・サラリーマン3名
BMIが30以上(肥満者):2名
週1回以上の運動習慣:あり4名・なし7名

下記の4条件のトライアルを実施
有酸素・食前条件:有酸素20分-昼食20分-休憩20分
有酸素・食後条件:昼食20分-休憩20分-有酸素20分
筋トレ:・食前条件:筋トレ20分-昼食20分-休憩20分
筋トレ・食後条件:昼食20分-休憩20分-筋トレ20分

各トライアルは6日間で構成、前半3日間はコントロール期間、後半3日間は運動期間
各条件間に1-2週間のリセット期間あり

対象者がほとんど習慣的な運動習慣を有していなかったと仮定して、有酸素と筋トレは安全に実施できる内容とした
有酸素の内容:時速4kmでの歩行1分(W-up)、時速6kmで歩行18分、時速4kmで歩行1分(C-down)

筋トレの内容:ストレッチ1分(W-up)、筋トレ18分(プッシュアップ、スクワット、プランクの3種目を10-20秒の休憩を挟みながらそれぞれのペースで実施)、ストレッチ1分(C-down)

対象者は各トライアル期間中の昼食はメインディッシュとして米100g(炭水化物40g)と普段とおりのタンパク質と脂質を摂取するよう求められた
また朝食と夕食も普段通りの食事を続けるよう指示された

血糖値の測定はFlash Glucose Monitoring System(Free style Libre)を利用

結果
・対象者の血糖値応答には大きな個人差があった

・食前・食後に関わらず有酸素条件はコントロール期間に比べて運動期間で昼食後の血糖値が低い時間帯が多かった
・食前・食後に関わらず筋トレ条件はコントロール期間に比べて運動期間の昼食後の血糖値がほとんど変わらなかった

・昼食後120分間の血糖値の曲線下面積を各条件でコントロール期間と運動期間で比較した結果、有酸素・食後条件のみ運動期間で減少

解説

食後血糖値は、インスリンの分泌や体内のインスリン感受性が低下し、糖質を正常に処理できない場合に高値を示し、糖尿病や糖尿病予備群の重要な指標と知られています。
特に糖尿病予備群や糖尿病を発症してから日が浅い人では、空腹時血糖値が正常範囲であっても、食後血糖値に異常がみられる場合が多いです。

運動が食後血糖値に与える影響を検証した先行研究は、この論文の条件と比べるとより長時間で高強度の運動プログラムを用いたものが多いです。
高負荷の運動は適切に行うと優れた効果が期待できる一方、運動習慣のない人にとっては実施する障壁が高いのが実情です。
この論文はそういった側面や労働者に与えられた昼休みの時間の実情を考慮し、比較的取り組みやすい運動プログラムが食後血糖値に与える影響を検証しました。
その結果、食後血糖値を最も効果的に減らした運動プログラムは、食後に有酸素運動を実施するという条件でした。

目的によって望ましい運動の種類やタイミングは異なりますが、高血糖の予防のためには食後に軽いウォーキングを実施するのが良い選択肢と言えます。

なお、この論文は対象者のサンプルサイズの少なさや、体型や運動習慣などに大きなバラつきがあったことに研究の限界があります。
また、論文を読む限りでは食事統制がどこまで厳密に行われていたのか不明瞭な部分があります。

オススメの関連記事

食後血糖値の上昇度合いは、食べる順序によって異なることが知られています。
特に有名なのがベジファースト(ベジタブルファースト)と呼ばれる野菜を一番最初に食べる方法です。
ベジファーストに関して、Ponさん(Twitter)が論文を分かりやすく解説している記事があるので、そちらもご参照ください。


(引用論文:Imai, S., Fukui, M., Ozasa, N., Ozeki, T., Kurokawa, M., Komatsu, T., & Kajiyama, S. (2013). Eating vegetables before carbohydrates improves postprandial glucose excursions. Diabetic medicine : a journal of the British Diabetic Association30(3), 370–372. https://doi.org/10.1111/dme.12073

まとめ

昼食後血糖値の上昇を抑えるためには食後の軽いウォーキングが有効