冬季五輪で5つの金メダルを獲得した超一流バイアスリートのトレーニングデータ

はじめに

バイアスロンとは、二種競技のことを指します。
一般にはクロスカントリースキーとライフル射撃を組み合わせた冬季スポーツ競技が有名であり、冬季五輪の正式種目にも採用されています。
以下、クロスカントリースキーとライフル射撃を組み合わせた競技をバイアスロンと表記します。

バイアスロンの種目には個人、スプリント、パシュート、マススタート、リレー、混合リレーがあります。
種目によって求められる体力要素は多少異なるものの、優れたパフォーマンスを発揮するにはクロスカントリースキー選手同様に高い全身持久力を有することに加え、精確な射撃能力も必須となります。

今回は、ワールドクラスな男性バイアスリートの11年間のトレーニングデータを報告したケーススタディを紹介します。

論文概要

出典

Schmitt, L., Bouthiaux, S., & Millet, G. P. (2020). Eleven Years’ Monitoring of the World’s Most Successful Male Biathlete of the Last Decade. International journal of sports physiology and performance, 16(6), 900–905. https://doi.org/10.1123/ijspp.2020-0148

方法
男性バイアスリート(身長:184cm、体重:80kg、最大酸素摂取量:83ml/kg/min)を対象
対象期間は2009-2019年(21-31歳)
対象期間中、男性バイアスリートは、ワールドカップで76回優勝(140回の表彰台)、ソチ五輪と平昌五輪で合計5つの金メダルを獲得

■トレーニング・パフォーマンスデータ
乳酸性作業閾値1と乳酸性作業閾値2の強度をもとに、低強度(Low Intensity Training:LIT)、中強度(Middle Intensity Training:MIT)、高強度(High intensity Training:HIT)に分類
加えてストレングストレーニングも分析対象

シーズン当たりのワールドカップの表彰台回数をパフォーマンスの指標と定義

■心拍変動(HRV)
各4週間で2回以上のHRVテスト(起床後朝食前に仰臥位・立位)を実施
HRVテストの2日前からは高強度トレーニングを行わなかった(試合期の場合、競技から2日を空けて実施)

結果
■表彰台回数
2009年から2018年にかけて2回から26回に増加したが2019年は6回に減少

■トレーニング
トレーニング量(時間)は2009年から2019年にかけて530時間から700時間に増加
トレーニング内容別にみると、86.3%がLIT、3.4%がMIT、4.0%がHIT、ストレングストレーニングが6.3%(平均値)
MITは2009年から2018年は1.6%-3.6%の範囲であったが、2019年は7.4%に増加

■HRV
仰臥位でのRMSSD(連続して隣接するRR間隔の差の2乗の平均値の平方根)は、2009年から2015年にかけて31msから114msに増加、その後2018年まで安定、2019年は94msに減少
仰臥位での心拍数(HR)は、2009年から2018年にかけて44.4拍/分から33.5拍/分に減少、2019年は35.9拍/分に増加

■パフォーマンスレベル、トレーニング、HRVの相関関係
シーズン当たりの表彰台回数は総トレーニング量(r = 0.73)、LITのトレーニング量(r = 0.92)、仰臥位でのHR(r = -0.66)、RMSSD(r = 0.58)と有意な相関関係
→総トレーニング量・LITのトレーニング量・RMSSDが高いほど、HRが低いほどシーズン当たりの表彰台回数が多い傾向

解説

バイアスロンは日本では馴染みが薄いですが、北欧で人気の高い冬季スポーツです。
ケーススタディで対象となったアスリートは、マルタン・フォルカード選手です。
マルタン・フォルカード選手のWikipediaはこちら

このケーススタディでは、1) 低強度のトレーニング量の増加に伴い競技力が向上していたこと、2) 競技成績が好ましくなかった2019年シーズンでは、トレーニング量は前年と差がなかったものの、低強度(LIT)のトレーニング量が減少し中強度(MIT)のトレーニング量が増加していたこと、3) 競技成績とHR・RMSSDとの間に相関関係が認められたこと、が示されました。

超一流選手のデータはアスリートやコーチにとって非常に参考になる知見に違いありません。
ただし、ケーススタディという特性上、因果関係を求めることはできません。
また五輪選手は五輪開催年に心身のピークを持ってくるようにトレーニング計画を立てることが多く、平昌五輪の翌年の2019年はモチベーションの変化も競技成績に影響した可能性は考えられます。

なお、マルタン・フォルカード選手はフランスの五輪史上、最も活躍したアスリートと呼べるほどの幾多の栄光を刻んだ上、2020年にバイアスロン競技を引退しています。

まとめ

超一流バイアスリートは低強度・総トレーニング量の増加に伴い競技成績が向上していた