エリート陸上競技選手に対する睡眠衛生サポートの効果

2024年2月8日

はじめに

睡眠衛生とは、健康な睡眠状態を維持し、良好な睡眠習慣を育むための概念です。

以前、紹介した論文では、プロラグビー選手に睡眠衛生教育を実施すると、一過性に睡眠時間は増えるものの、睡眠衛生教育から1カ月経過すると、その効果は失われていました。

今回紹介する論文では、イタリアのエリート陸上競技選手を対象として、睡眠衛生教育・戦略が睡眠データに及ぼす影響を調べています。

論文概要

出典

Vitale, J. A., Borghi, S., Piacentini, M. F., Banfi, G., & La Torre, A. (2023). To Sleep Dreaming Medals: Sleep Characteristics, Napping Behavior, and Sleep-Hygiene Strategies in Elite Track-and-Field Athletes Facing the Olympic Games of Tokyo 2021. International journal of sports physiology and performance, 18(12), 1412–1419. https://doi.org/10.1123/ijspp.2023-0144

方法
イタリアのオリンピックレベルの陸上競技選手16名を対象(男性:8名、女性:8名)
対象者の競技種目の内訳は下記のとおり
ジャンパーが2人、短距離が4人、中距離が2人、長距離が6人、投擲が2人

ベースライン時と個別化した睡眠衛生戦略指導の実施後のシーズン中の2回にわたり睡眠状況を評価
睡眠衛生教育・戦略の目的は、東京五輪前のアスリートの睡眠を科学的にサポートすること

睡眠データはアクチグラフィーを用いて測定
睡眠データは各期間ともに最低10日は計測

■睡眠衛教育・戦略
ベースライン期間と睡眠とスポーツ科学に関する経験豊富な研究者との1対1のウェブベースの睡眠教育(約1時間)実施後に、各アスリートは個別化された睡眠衛生戦略を3回連続受講
睡眠衛生戦略は、睡眠の質、量、タイミングの最適化を目的として、ベースライン時の睡眠データに基づいて個別化されていた
具体的な戦略として、総睡眠時間の延長(例:睡眠-覚醒サイクルの一貫性)、睡眠潜時の短縮(例:電子機器のプラグを抜く、薄暗い照明、正しい夕食のタイミング)、睡眠環境の改善(例:室温、環境騒音など)、日中の昼寝の管理が含まれた
トレーニングに関する操作はなし

結果
※数値は平均値
ベッドに入った時間(ベースライン:00:20、指導後:00:01)、起床時間(ベースライン:07:55、指導後:08:09)、総睡眠時間(ベースライン:07:09、指導後:07:31)、睡眠潜時(ベースライン:14.3分、指導後:10.7分)は有意に増加・改善

睡眠効率と中途覚醒時間は有意差なし

解説

この論文は、陸上競技エリート選手たちを対象として、睡眠衛生教育・指導を行うことで、客観的な睡眠データが改善したことを報告しています。
本文によると、対象者のうち3名は東京五輪で金メダルを獲得しており、正真正銘のトップ選手を対象としたサポート介入の効果を報告している点で価値のある論文です。

睡眠の改善は、睡眠時間を増やす、睡眠の一貫性を保つに集約されることがほとんどですが、睡眠のボトルネックになっている原因は個人によって様々です。
したがって、この論文のアプローチのように、1対1のセッションでアプローチした方が効果を求められそうな気がします。
(1対1の方が動機を高めやすいといった側面もありそうです)

また、エリート選手であっても、睡眠は改善できる伸び代があるなとも改めて感じる結果でもありました。

まとめ

個別化された睡眠衛生教育指導はエリート選手の睡眠をよくする