女性ランナーは出産後も高いパフォーマンス発揮が出来る

はじめに

女性の人生において、妊娠出産は重要な節目です。
特に、アスリートの場合、選手個々のキャリアや目標にもよりますが、妊娠適齢期が競技のピークに重なることは、しばしば起こります。
したがって、妊娠と競技生活の両立は注目されるべきテーマです。

今回紹介する論文では、エリート女性ランナーの妊娠前後のトレーニングや競技力を調査しています。

論文概要

出典

Darroch, F., Schneeberg, A., Brodie, R., Ferraro, Z. M., Wykes, D., Hira, S., Giles, A. R., Adamo, K. B., & Stellingwerff, T. (2023). Effect of Pregnancy in 42 Elite to World-Class Runners on Training and Performance Outcomes. Medicine and science in sports and exercise, 55(1), 93–100. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000003025

方法
最初の妊娠から5年以上経過し、陸上競技1500m以上の中長距離種目でIAAFのパフォーマンステーブルポイントが980点以上のアスリートを対象

分析対象者は42 名(50% 以上が世界選手権・オリンピックへの出場経験あり)
妊娠前、妊娠中、妊娠後のトレーニングや怪我に関するアンケート調査を実施

対象者の地域は、オーストラリア、カナダ、アイルランド、リトアニア、モロッコ、イギリス、アメリカ

パフォーマンスの分析はWorld AthleticsのWebサイトで35名のアスリートのデータを把握
出産前10年と出産後10年にわたり、合計2703件のパフォーマンスを特定
うち、28名が出産後1年から3年以内にレース出場
出産直前の1年間と出産直後の1年間は分析から除外
パフォーマンス分析は、妊娠前と同等以上のパフォーマンスレベルに戻る意図があった人となかった人に分けても実施

結果
走行距離は、妊娠第1期(平均63km/週)から妊娠第3期(平均30km/週)にかけて減少
出産後約6週間で運動を再開し、3か月後までに妊娠前のトレーニング量の約80%に戻る

年間のレース出場数は妊娠前の 2-5年間(平均7.2回)に比べて、妊娠前後の1年間(平均2.8回)で低く、妊娠後3-5年で徐々に増加したが(平均4.4回)、妊娠前に比べると少ないまま

約64%が妊娠前と同等以上のパフォーマンスレベルに戻る意向があった
妊娠前と同等以上のパフォーマンスレベルに戻ることを意図した人は、出産後1-3年後にパフォーマンスの低下はなく、56%(18/28)の人でパフォーマンスが向上した

全体の50%(21/42)が出産後に怪我によってランニングや競技復帰が遅れたと報告
怪我をしたグループとしなかったグループで妊娠中および妊娠後トレーニング関連のデータを比較しても有意差はない
妊娠前と同等以上のパフォーマンスレベルに戻ることを意図した人の中で怪我をした人達の出産後の相対的なパフォーマンスは、怪我をしなかった人たちに比べると低い(-0.8%対+3.6%)

解説

この論文は、出産を経験した42名のエリートからワールドクラスのアスリートを対象として、出産前後のトレーニングの変化やパフォーマンスを報告しています。
得られた結果は、出産前と同等以上のパフォーマンスレベルに戻ることを意図した人たちは、出産から1-3年後には統計学的に有意差が認められないまでに競技力を戻していました。
興味深いことに、彼女らは妊娠出産後に同等以上のパフォーマンスを発揮したのにも関わらず、以前に比べてレース出場回数が大幅に減っていました。
論文の著者らは、この理由を説明する要因として、身体へのさらなるストレス、回復時間の増加、怪我、親としての役割を果たすための制約を挙げていました。

また、論文の著者らは、出産後の優れたパフォーマンスの発揮の理由として、先行研究を踏まえた上で、生理学的根拠(潜在的な血液量の増加や心拍出量の増加)に加え、次のことを述べていました。

総合すると、この調査結果は、出産がエリートアスリートのキャリアのプラスの部分となり得ることを示しています。強制的な休憩は精神的にも肉体的にもメリットがあるかもしれません。さらに、私たち自身の以前の研究では、特にアスリートが強力な社会的サポートと育児を受けている場合、母親であることに焦点を当て、優先順位を変えることで、パフォーマンスの結果にかかるストレスの一部が軽減される可能性があることが示されています。

もちろん、ケースバイケースではありますが、トータルでみると、女性アスリートの競技力向上と言う観点でみても、妊娠出産というのは十分プラスに働くと言えそうです。

まとめ

妊娠出産した女性中長距離ランナーは再び第一線で活躍できる