【温故知新シリーズ4】摂取カロリーが同じでも、睡眠時間が短いと筋肉量が減る

はじめに

10年以上前に発表された論文を扱う温故知新シリーズ。
四回目となる今回は減量と睡眠に関する研究を扱います。

減量には身体を負のエネルギーバランス(摂取カロリー<消費カロリー)にする必要があります。
負のエネルギーバランスを作るには、運動や身体活動量によって消費カロリーを増やすアプローチがあります。
しかし、肥満者においては運動へのモチベーションや体力の欠如、関節の負担といった理由から十分な消費カロリーを獲得することが難しいのが実際です。
そのため食事制限によって摂取カロリーを減らすことは、減量効果を高めるために重要です。

今回は、カロリー制限中の睡眠時間が減量効果に及ぼす影響を検証した論文を紹介します。
この論文の発刊年は2010年であり、今日に至るまで250以上の論文に引用されている上、Web上での論文の影響度を示すAlmetric Attention Scoreは1200を超えており、数多くの記事のエビデンスとして使われています。

論文概要

出典

Nedeltcheva, A. V., Kilkus, J. M., Imperial, J., Schoeller, D. A., & Penev, P. D. (2010). Insufficient sleep undermines dietary efforts to reduce adiposity. Annals of internal medicine, 153(7), 435–441. https://doi.org/10.7326/0003-4819-153-7-201010050-00006

※数値は平均値

方法
35-49歳・非喫煙者・BMIが25-32kg/m2、普段の睡眠時間が6.5-8.5時間といった一定の選択基準を満たした12名の男女を対象
最終的な実験完遂者は10名(年齢41歳、自己申告の睡眠時間7.7時間)

ランダム化クロスオーバーデザイン
条件:Time in bed(全就床時間)が5.5時間と8.5時間の2条件

実験手順は下記のとおり
・プレ測定@2日間(全就床時間:7時間)
→体重、体組成、血液サンプル
・介入期間@14日間(全就床時間:8.5時間or5.5時間)
→カロリー制限、総エネルギー消費量、安静時代謝・呼吸商・食欲(最終日)
・ポスト測定@2日間(全就床時間:7時間)
→体重、体組成、血液サンプル
※条件間のウォッシュアウト期間は3カ月以上

介入期間中の食事は下記のとおり
1日のエネルギー摂取量は安静時代謝の90%
全エネルギー摂取量のうち、25%を朝食(8-9時)、30%を昼食(12時30分-13時30分、35%を夕食(18時30分-19時30分)、10%を間食(21時)で摂取

測定項目・方法は下記のとおり
・血液サンプル
→30分ごとに24時間をとおしてレプチン、グレリン、コルチゾール、成長ホルモン、エピネフリン、ノルエピネフリンなどを測定
・形態・身体組成
→体重、除脂肪量・体脂肪量(二重X線吸収法)
・総エネルギー消費量
→二重標識水法によって介入期間中のエネルギー消費量を測定
・安静時代謝・呼吸商
→代謝測定機によって介入期間最終日の早朝空腹時から4時間後に測定
・食欲
→介入期間最終日の各食事の前、22時30分に測定

結果
・総睡眠時間は8.5時間条件で7時間25分、5.5時間条件で5時間14分(群間差あり)
・睡眠効率は8.5時間条件で87%、5.5時間条件で95%(群間差あり)

・介入期間中のエネルギー摂取量(約1450kcal/日)、エネルギー消費量(約2140kcal/日)に群間差はなく、負のエネルギーバランスになっていた

・体重の減少量に群間差はなく、約3kg減少
・体脂肪量は8.5時間条件で顕著に減少(8時間条件:-1.4kg、5.5時間条件:-0.6kg)
・除脂肪量は5.5時間条件で顕著に減少(8時間条件:-1.5kg、5.5時間条件:-2.4kg)

・食欲、空腹時・食後の呼吸商、24時間をとおしたグレリン濃度は5.5時間条件で介入期間後に顕著な増加
※呼吸商の増加は脂質代謝の抑制、糖質代謝の亢進を意味

・安静時代謝、24時間をとおしたエピネフリン濃度は8.5時間条件に比べ5.5時間条件で低かった

・食後誘発性熱産生は群間差なし

解説

この論文は、摂取カロリーが同じでも睡眠時間が短いと体脂肪が落ちにくく、除脂肪(≒筋肉)が落ちやすいことを示しています。

5.5時間条件で介入期間後に食欲亢進や脂肪蓄積の作用を持つグレリン濃度が増加していました。
また5.5時間条件では呼吸商が増加していました。
呼吸商は酸素摂取量と二酸化炭素排出量との比のことであり、消費したエネルギーの源を表し、数値が0.7に近いほど脂質が使われていること、1.0に近いほど糖質が使われていることを示しています。
したがって、睡眠不足の状態ではグレリン濃度が増加することで脂質代謝が妨げられたために、体脂肪の減少が少なくなったと考えられます。

体重はダイエッターの代表的な指標に違いないですが、減量では筋肉量を可能な限り維持(場合によっては増加)しつつ、体脂肪を削ぎ落すことが大事です。
せっかく頑張ってカロリー制限をするのであれば、十分な睡眠を確保してボディメーキングの質を高めていきたいところです。

 

まとめ

カロリー制限中の睡眠時間が短いと筋肉量が削られやすい