持久系スポーツ愛好家の怪我のリスク

はじめに

以前、市民ランナーを対象とした横断研究において、「ランニングへの執着的情熱やモチベーションが高すぎるとランニング傷害になる可能性が高まるかもしれない」ことを報告した論文を紹介しました。

市民ランナーのランニング障害はメンタルが関係

このように、持久系スポーツ愛好家の怪我は、練習量や練習強度と言ったトレーニング負荷以外の要因にも影響を受けます。

今回紹介する論文では、持久系スポーツ愛好家を対象とし、主観的健康不満(Subjective Health Complaints: SHCs)、睡眠と怪我との関連を調査しています。

なお、SHCsは、Subjective Health Complaints Inventoryと呼ばれる調査によって定量され、心肺系(動機、心拍数増加、胸痛、胸やけ、呼吸困難)、消化器系(胃部不快感、下痢、便秘、食欲不振)、心理・生活習慣系(不安、悲しみ、抑圧、気分の落ち込み、めまい、疲労感、睡眠障害、気力の低下)のサブスケールに分けられています。

 

論文概要

出典

Johnston, R., Cahalan, R., Bonnett, L., Maguire, M., Glasgow, P., Madigan, S., O’Sullivan, K., & Comyns, T. (2020). General health complaints and sleep associated with new injury within an endurance sporting population: A prospective study. Journal of science and medicine in sport, 23(3), 252–257. https://doi.org/10.1016/j.jsams.2019.10.013

方法
アイルランドの15の持久系スポーツのクラブに所属する愛好家・アスリート95名を分析対象
(レクリエーショナルレベルが95%)

調査期間は52週間
毎週オンラインでトレーニング状況とSHCs(各項目の発生の有無)、睡眠時間(平日・週末)、怪我の発生状況を報告

7日および14日のラグ期間を適用し、共有フレイルティモデルを用いて、総SHCおよび睡眠量と新たに発生した怪我との関連を検討(7日のラグ期間の場合、例えば8週目のSHCsや睡眠時間と9週目の怪我の発生状況)

結果
7日のラグ期間でみた場合、心理・生活習慣系のSHCは怪我の発生リスクと有意な関連あり(ハザード比(HR):1.32)

14日目のラグ期間でみた場合、睡眠時間が7時間/日未満では怪我の発生リスクが増加(HR:1.51)、7時間/日以上では減少(HR:0.63)

2次回帰分析では、SHCsの総数もしくは睡眠時間とその前後のトレーニング負荷との間に有意な関連は見られなかった

解説

スポーツ愛好家を対象とした怪我の発生リスクに関する研究の多くは横断研究ですが、この研究は横断研究ではなく、縦断研究(前向き研究)という点で価値があります。

得られた結果は、1週間前に報告された心理・生活習慣系のSHC、および2週間前の7時間未満/日の睡眠時間は、新たな怪我のリスクになる可能性があることを示唆しています。

持久系スポーツの愛好家、アスリートもしくは指導者は、トレーニング以外の要因が怪我に繋がる可能性を認識した方が良いと思っています。
ただし、心理・生活習慣系のSHCが起きたときや睡眠時間が短い日の直後に必ずしも怪我が発生するとは限らず、ストレスフルな状況と怪我の発生との間にはときにタイムラグがあります。

この論文は、7日間と14日間という2つの期間しか統計学的に検討されていないものの、心理・生活習慣系は最低でも1週間後、睡眠時間不足は最低でも2週間後まで特に注意が必要であると言えそうです。

まとめ

持久系スポーツ愛好家は心理・生活習慣系のストレスを感じた時、1週間は怪我に気を付けよう