2週間の集中トレーニングを強度刺激あるいは量刺激で行うと・・・

はじめに

ある程度トレーニングを積んだ一般ランナー(市民ランナー)がさらにフィットネス向上を引き起こすためには、トレーニングで身体に過負荷をかける必要があります。

持久系スポーツで過負荷をかける手段としては、高強度トレーニングによる強度刺激と低強度高量トレーニングによる量刺激に大別できます。

今回紹介する論文では、一般ランナーを対象として2週間の集中トレーニング(Blockトレーニング)を強度刺激あるいは量刺激で行った際のモニタリング指標(生理指標、主観指標)と3000mパフォーマンスの変化を検証しています。

論文概要

出典

Nuuttila, O. P., Ari, N., Heikki, K., Jari, L., & Keijo, H. (2022). Physiological, Perceptual, and Performance Responses to the 2-wk Block of High- versus Low-Intensity Endurance Training. Medicine and science in sports and exercise, 10.1249/MSS.0000000000002861. Advance online publication. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000002861

方法
■対象者
日常的に週4回以上のランニング習慣を有する一般ランナー40名を対象
病気や怪我等により最終的なデータ分析対象者は30名

■実験概要
4フェーズ構成
フェーズ1:準備期(2週)
→普段通りのトレーニングを実施
フェーズ2:回復期(1週)
→フェーズ1の50%のトレーニング量を実施
フェーズ3:過負荷期(2週)
→2群に分かれて後述のトレーニングを実施
フェーズ4:回復期(1週)
→フェーズ2と同じトレーニングを実施

■測定・評価項目
3000mタイムトライアル、垂直跳びテスト、空腹時採血、尿検査:
フェーズ1の前(T0)、フェーズ2の半ば(T1)、フェーズ3の1日後(T2)、フェーズ4の後(T3)

トレッドミルでの呼気ガス漸増負荷テスト:T0

睡眠時の心拍数と心拍変動:
フェーズ2(Pre)、フェーズ3の1週目(Week1)・2週目(Week2)、フェーズ4(Week3)の週平均データ

■フェーズ3のトレーニング
3000mタイムトライアル、漸増負荷テストの最高走行速度、心拍変動をもとに、フェーズ1の終わりにインターバルグループ(INT)と高量グループ(VOL)に対象者を割り当て
トレーニングはINTが屋外ロード/トラック、VOLが舗装路・未舗装路(50:50の比率)で実施

INTの主トレーニング:
6×3分@維持できる最大強度-2分アクティブレスト(ウォーキング):5回/週

VOLのトレーニング:
基本セッション(第一の乳酸性閾値の心拍数の85-95%):4回/週、準備期の約1.5倍の時間
ロングセッション(第一の乳酸性閾値の心拍数の75-90%):1回/週、準備期の1.66倍の時間

結果
■フェーズ3のトレーニング
※いずれもフェーズ1との比較
INT:Time in Zone法で分析されたZone2(第一の乳酸性閾値-第二の乳酸性閾値)は平均33分増加、Zone3(第二の乳酸性閾値以上)は平均55分増加
VOL:トレーニング量は平均68%増加、走行距離は平均76%増加

INTは1回目に比べると6・7・9・10回目のセッション中の平均心拍数が減少

■パフォーマンス
両群でT1に比べてT2、T3で3000mタイムトライアルの成績が向上

垂直跳びは変化なし

■生理指標
クレアチンキナーゼはVOLでT1に比べT2で増加
ヘモグロビンとヘマトクリットから推定した血漿量はT1に比べT2でINTが平均4.3%、VOLが5.1%増加

睡眠時心拍数はINTでPreと比べてWeek3、Week2と比べてWeek3で減少
睡眠時心拍数はPreとWeek1(INTで平均1.9%増加、VOLで平均1.6%減少)、Week2とWeek3(INTで平均3.8%減少、VOLで平均0.1%増加)の変化が群間差あり

睡眠時Ln RMSSDはPreとWeek1の変化が群間差あり(INTで減少、VOLで増加)

■主観指標
筋肉痛はINTでPreと比べWeek1・Week2で増加、群間差あり

■モニタリング指標と3000mパフォーマンスの相関関係
両群合わせてみると、Week2の疲労(r = -0.449)と筋肉痛(r = -0.375)はT1からT2にかけての3000mパフォーマンスの変化と有意な相関関係

解説

この論文は、ランニング習慣を有する一般ランナーを対象として、2週間の集中トレーニングを高強度(強度刺激)あるいは低強度高量(量刺激)で行った場合、いずれもパフォーマンス向上が期待できることを示しています。

持久系アスリートを対象とした場合、過負荷期(フェーズ3)直後ではパフォーマンスが一時的に低下することもありますが、一般ランナーの場合は過負荷期直後でもパフォーマンスの向上が起こる場合もあるようです。
一方、その後の回復期(フェーズ4)後と過負荷期直後のパフォーマンスには有意差がなかったことから、トレーニング負荷の減少(テーパリング)後にさらなるパフォーマンス向上が起こることはありませんでした。
ただし、この現象が一般ランナーに特異的というよりは、過負荷期の前後を含むトレーニング内容に依存する可能性はありそうです。

一般に筋ダメージの指標として扱われるクレアチンキナーゼ(CK)と筋肉痛は真逆のレスポンスを示しました。
すなわち、過負荷期直後のCKはVOLで増加していた一方、筋肉痛のスコアは過負荷期間中にINTで増加しました。
論文の著者らは、VOLでは測定の2日前にロングセッションを実施していたことがCKを高めたことに繋がった可能性があると考察していました。
一方、INTのトレーニングは、タイプⅡ筋線維が動員されやすいセッションであったことから、筋肉痛を感じやすかったと考えられます。

この論文は、持久系アスリートのトレーニングに対するトレーニング中の生理指標、安静時の生理指標、主観指標、パフォーマンス指標の関係を理解するために有益なデータを提供しています。
しかし、各指標への理解が浅い場合、十分に理解することが困難な論文でもあります。

まとめ

一般ランナーは2週間の集中トレーニングを高強度、低強度高量のいずれで実施してもパフォーマンス向上が期待できる