市民ランナーのランニング障害はメンタルが関係

2021年7月31日

はじめに

ランニングは他のスポーツに比べて必要な道具が少なく、屋外で気軽にできるという特徴があります。
健康面を踏まえても、ランニングは全身運動であり、心臓血管系のフィットネス(全身持久力)の向上に効果的です。
今日では市民ランナー(レクリエーショナルランナー)と呼ばれる多くの愛好家がランニングを嗜んでします。

一方、ランニングは下肢のオーバーユース(使いすぎ)を起因とする怪我(ランニング障害)が起こる場合があります

ランニング障害の発生率は対象者の特性やその定義によって様々ですが、80%近いランナーがランニング障害だったという報告もあります。
健康増進のために始めたランニングも怪我をしてしまっては医療費が余計にかかってしまい、本末転倒になってしまいます。
また、一度走る楽しみを覚えた市民ランナーにとってランニング障害で思うように走れない日々は精神衛生にも悪影響を及ぼすことが容易に想像できます。

今回はイランで行われた調査をもとに、ランニング障害を有するランナーの特徴について主に精神面から検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Mousavi, S. H., Hijmans, J. M., Minoonejad, H., Rajabi, R., & Zwerver, J. (2021). Factors Associated With Lower Limb Injuries in Recreational Runners: A Cross-Sectional Survey Including Mental Aspects and Sleep Quality. Journal of Sports Science and Medicine, 20(2), 203-214.

方法
市民ランナーを対象としてオンライン調査を実施
アンケート回答者826人(データの欠損などにより分析対象者は804名)

主な調査項目は下記のとおり
ランニング障害(Running related injury: RRI):過去6ヶ月以内のRRIの有無。RRIの定義は、1週間以上あるいは計画されたトレーニングセッションを3回以上にわたり変更・中止を強いられた場合。RRIは部位や障害別に調査

個人の特徴:年齢、体重、慎重、教育歴、ランニング状況(ランニング経験、週間走行距離、ランニングスピード、週当たりの頻度、ランニングサーフェイスなど)

足のアーチのタイプ

ランニングへの執着的情熱(Obsessive Passion):6つの質問、1-7段階の尺度で定量

運動への動機:Behavioral Regulation in Exercise Questionnaire-2をもとに定量

睡眠の質:Pittsburgh Sleep Quality Index(PSAI)をもとに定量

主観的な健康度:Rand 36-itemsをもとに定量

結果
・分析対象者のうち57%(462人)が男性

・分析対象者のうち、80%は5年以上のランニング経験、BMIが正常範囲(18-25)、であった

・54%(432人)が過去6ヶ月以内に少なくとも1つのRRIを報告。うち17%(74人)は二つ以上のRRI

・RRIの症状としては、膝蓋大腿疼痛症候群が最も頻繁に報告され(20%)、ついで脛骨内側ストレス症候群であった(17%)

・RRIの部位としては、膝が最も頻繁に報告された(45%)

・RRIと関係していた指標は、ランニングへの執着的情熱(オッズ比:1.35)、運動へのモチベーション(オッズ比:1.09)、睡眠の質(オッズ比:1.23)、主観的な健康度(オッズ比:0.96)、週当たり20 km以上の走行距離(オッズ比:1.58)、過体重(オッズ比:2.17)、偏平足(オッズ比:1.80)、固い路面でのランニング(オッズ比:1.37)、複数人でのランニング(オッズ比:1.65)、トレーニングプログラムの実施(オッズ比:1.51)であった

・上記の要因によるRRIの説明率は30%

・精神面の特徴(ランニングへの執着的情熱、運動へのモチベーション、睡眠の質)によるRRIの説明率は15%

解説

ランニング障害の発生要因は複雑です。
したがって、各要因による説明率は対象者の特性やその論文で扱われている指標に依存します。
この論文では、精神面に着目し市民ランナーの過去6ヶ月のランニング障害との関係を調べたところ、ランニングへの執着的情熱、運動へのモチベーション、睡眠の質と関係が認められました

具体的に言うと、ランニングに対する執着的情熱や運動へのモチベーションが高い人はランニング障害の発生率が高い傾向でした。

情熱は一般的に執着的情熱と調和的情熱の2種類に分類できます。
前者は自分を追い込んでその活動を強いる思考、後者はワクワクした気持ちをもとに楽しみながら活動をする思考といわれています。

この論文から因果関係を述べることはできませんが、執着的情熱や運動へのモチベーションが高いランナーでは、多少の違和感などがあったとしても、無理してトレーニングを続けてしまい、結果としてランニング障害を発症してしまうのかもしれません

また、貧しい(Poor)睡眠の質ではランニング障害の発生率が高い傾向にありました。
ランニング障害に限らず、スポーツ傷害と睡眠との関係が近年報告されていることから、良質な睡眠の質の確保は下肢の神経・骨格・筋肉の十分な回復のためには重要だと言えます。

ところで、近年では市民ランナーといえども自己記録の向上のために過酷なトレーニングを自らに課している人も少なくありません。
中にはフルタイムでの仕事や主婦として家事や育児をこなした上で実業団・プロ並みの練習量を確保している人もいます。
そのようなランナーの執着的情熱や運動へのモチベーションと競技力・パフォーマンスとの関連を検証したら、面白い結果になるのかもしれません。

まとめ

ランニングへの執着的情熱やモチベーションが高すぎるとランニング傷害になる可能性が高まるかもしれない