耐久性は短時間の高強度トレーニングでも鍛えられる

はじめに

長時間持久系パフォーマンスを説明する3つの要因として、最大酸素摂取量(VO2max)、エコノミー・エフィシェンシー、酸素摂取水準(%VO2max)があります。

実のところ、この三要因は短時間の高強度トレーニングだけでも鍛えることができます。
しかし、エリート持久系アスリートは長時間の持久系トレーニングを日常的に実施しています。
また、一般のスポーツ愛好家の多くも、長時間トレーニングを定期的に実施しており、マラソンに初めて出場するような初心者に対しても、長時間走り続けることが推奨されています。

長時間トレーニングの謳い文句として、耐久性(Durability)の向上が挙げられることがあります。
Durabilityを科学的に定義すると、「長時間運動における生理学的プロフィールの悪化が起こり始める時間とその程度」になります。
何となく、Durabilityを鍛えるのには、長時間動き続けることが重要だと認識されているものの、それを実証するエビデンスは思いの外、少ないのが実際です。

今回紹介する論文では、低強度長時間トレーニング戦略と高強度短時間トレーニング戦略がDurabilityに及ぼす影響を比較検証しています。

論文概要

出典

Matomäki, P., Heinonen, O. J., Nummela, A., Laukkanen, J., Auvinen, E. P., Pirkola, L., & Kyröläinen, H. (2023). Durability is improved by both low and high intensity endurance training. Frontiers in physiology, 14, 1128111. https://doi.org/10.3389/fphys.2023.1128111

方法
健康的で座りがちあるいはレクリエーショナルに活動的な18-40歳を対象
測定やトレーニングの様式はサイクリング

■トレーニング実験の流れ
・実験室訪問1日目
スクリーニングと形態測定

・実験室訪問2-3日目(プレテスト)
スプリントテスト、VO2maxテスト、Durability test

・対象者のランダマイゼーション
低強度(LIT)グループ
4.5-12.5時間/週の低強度(乳酸性閾値1未満)のトレーニング

高強度(HIT)グループ
2-3セッション/回、15-30分の高強度(乳酸性閾値2を超える強度)/セッションのトレーニング

・実験室訪問4日目
Vo2maxテスト(トレーニング期間の6週目)

・実験室訪問5・6日目(ポストテスト、10週間のトレーニング期間終了後)
スプリントテスト、VO2maxテスト、Durability test

■実験室での測定
・スプリントテスト
15秒のオールアウト形式のサイクリング運動(15秒ウインゲートテスト)

・VO2maxテスト
スプリントテストと同日に実施
VO2max、乳酸性閾値1、乳酸性閾値2などを測定

・Durabilityテスト
50%VO2maxのパワーの強度で3時間実施
プレとポストで絶対的同一強度で実施
1回拍出量(SV)、左室駆出時間(LVET)、主観的運動強度(RPE)、エネルギー消費量(EE)、心拍変動(HRV)、心拍数(HR)、換気量(VE)などを測定
Durabilityテスト終了直後にスプリントテストも実施
水分は自由摂取、糖質補給は個別に量を規定した上で摂取

Durabilityの評価要素
1)生理学的ドリフト
30分から180分にかけてのEE、HR、RPE、VE、LVETの変化

2)ドリフト発生タイミング
生理学的指標が所定量変化したポイント。
先行研究を参考に、HRとVEは+5%、EEは+2.5%、RPEは+2単位、LVETは-1.5%

3)生理学的負担
HR、HRV、RPE、血中乳酸の絶対値
スプリントパフォーマンスの疲労率(通常の結果とDurabilityテスト後の比)

■トレーニングについて
LITは週5-6回実施
Long(1.5-4時間)、Medium(1-1.5時間)、Short(45-60分)の日があった
トレーニング量は個人ごとに徐々に増加(週当たり4.5時間から最大で12.5時間)

HITは週2-3回実施
3-7分@高強度(LT2のパワーの110%以上)-高強度の3/4時間@60W未満のインターバル
最初の週は、高強度の時間が15分/セッション、その後は30分/セッションに向けて個人ごとに負荷を漸増

結果
3つの要素からみたDurabilityは、両群で改善したが、群間差なし
生理学的ドリフトは、群×時間の交互作用はなかったものの、プレポスト比較ではHITのみ改善
ドリフト発生タイミングは、群×時間の交互作用はなかったものの、プレポスト比較ではHITのみ改善
生理学的負担は、両群ともに改善

VO2maxは、HITのみ増加
VO2maxテストの最高パワーは、両群で増加したものの、HITがより顕著に増加
乳酸性閾値1のワットは、両群で増加したが、群間差なし
乳酸性閾値2のワットは、両群で増加したものの、HITがより顕著に増加

解説

この論文は、Durabilityを鍛えることを目的とした場合でも、低強度長時間トレーニングをするよりも、短時間高強度トレーニングの方が効果的なことを示しています。
なお、論文の結論自体は、LIT、HITのいずれもDurabilityを改善させるとされていますが、結果の詳細で判断すると、HITの有効性が高いと言えます。

両群のトレーニングプログラムは研究目的を達成するには妥当と言えるものの、極端なものです。
したがって、よりオーソドックスなトレーニング(Polarized Trainingのようなアプローチ)と比較した場合の結果が気になります。

また、長時間の持久系スポーツは、マラソンのような筋ダメージが著しい運動形態とサイクリングのような運動形態では、パフォーマンスの限定要因が変わると考えられます。
今回の結果はあくまでもDurabilityという生理学面に着目したものであり、パフォーマンス向上にどれだけ有益なのかは未知数ですが、サイクリング以外の持久系スポーツを対象とした場合の実験喫腱も気になります。

いずれにしても、1回の練習時間を長くとれない持久系スポーツ愛好家には朗報とも言えるエビデンスです。

まとめ

1回に費やせるトレーニング時間が短くても長時間持久系運動中の生理学的負担を軽減する効果は獲得可能