HIITは最大酸素摂取量を伸ばすために効果的

はじめに

持久系パフォーマンスを左右する代表的な生理学的要因は、最大酸素摂取量(VO2max)、無酸素性閾値、エコノミー(経済性)です。

このうち、インターバル形式で行われる高強度トレーニングはVO2maxを高める効果的なトレーニング方法と認識されています。
また、一口にインターバルトレーニングと言っても、具体的なトレーニング方法は、時間、強度、量などの変数を変えることで、無数に作り出すことができます。

今回紹介する論文は、次の3つのインターバルトレーニングの効果を検証しています。
1. 高強度インターバルトレーニング(HIIT)
2. 短時間休息のスプリントインターバルトレーニング(短時間レスト・SIT)
3. 長時間休息のスプリントインターバルトレーニング(長時間レスト・SIT)

論文概要

出典

Hov, H., Wang, E., Lim, Y. R., Trane, G., Hemmingsen, M., Hoff, J., & Helgerud, J. (2022). Aerobic high-intensity intervals are superior to improve V̇O2max compared with sprint intervals in well-trained men. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 10.1111/sms.14251. Advance online publication. https://doi.org/10.1111/sms.14251

方法
48名の健常者を対象(有酸素トレーニングを週1回以上実施、VO2maxが50ml/kg/min以上)
実験開始前あるいは開始後のドロップアウトによって最終的なデータ分析対象者は、各群10名前後の合計31名

対象者は有酸素的な運動をしていたものの、陸上競技を専門的に実施するアスリートではなかった

ランダムに3群に分類し各トレーニングプログラムを実施

■トレーニングプロトコール
トレッドミルで週3回の頻度で8週間実施
実験期間中の他の高強度トレーニングは禁止としたが、普段のアクティビティは通常通り続けた

・HIIT
4×4分@95%最高有酸素走行速度(MAS)-3分@アクティブレスト
90-95%最大心拍数(HRmax)を目標に実施
アクティブレストの強度は70%HRmax
ウォームアップとクールダウンを含め合計38分

・短時間レスト・SIT
8×20秒@~150%MAS-10秒@パッシブレスト
各セッション内での強度は統一、9本実施できた場合は次のセッションでの強度を漸増
ウォームアップとクールダウンを含め合計25分

・長時間レスト・SIT
10×30秒@~175%MAS-3.5分@アクティブレスト
最初のセッションでの1本目の強度は、300mパフォーマンステストの平均強度
セッション内の強度は、30秒維持できる範囲で本数が増えるごとに減少
アクティブレストの強度は70%HRmax未満
ウォームアップとクールダウンを含め合計49分

■計測項目
トレーニング期間前後に下記項目の測定を実施

・漸増負荷試験
VO2max、ランニングエコノミー(最大下強度の酸素摂取量)、乳酸性閾値

・超最大負荷試験(2-3分)
最大酸素借(Maximal accumulated oxygen deficit: MAOD)

・300mパフォーマンス(200mトラック利用)

・3000mパフォーマンス(200mトラック利用)

・血液パラメーター
炭酸水素塩、赤血球、ヘモグロビンなど

結果
データ分析対象者は、24回のセッションのうち、少なくとも20回実施

・VO2max
群内分析:HIIT、短時間レスト・SITで増加
群間分析:HIITが他の2グループより増加

・MAOD
群内分析:短時間レスト・SITで増加
群間分析:短時間レスト・SITがHIITより増加

・300mパフォーマンス
群内分析:短時間レスト・SIT、長時間レスト・SITで増加
群間分析:有意差なし

・3000mパフォーマンス
群内分析:3群で増加
群間分析:HIITが長時間レスト・SITより増加

・血液パラメーター
群間分析:炭酸水素塩がHIITで増加
群間分析:炭酸水素塩のHIITが短時間レスト・SITより増加

・3000mのパフォーマンスの変化との相関関係
MASの変化と有意
乳酸性閾値の走行速度の変化と有意
VO2maxの変化とは有意傾向(p = 0.08)

・トレーニング中の心拍数(薄い点線)・酸素摂取量の典型例(濃い実践)

Figure 2を引用

解説

HIIT、SITの効果を直接比較したトレーニング実験です。
有酸素パフォーマンスの面からみると、HIITで優れた効果が得られたことを示しています。

ただし、従来のSITは、そのセッションあるいは、その本(Bout)の強度が落ちても良いので、とにかく全力で実施することが基本です。
そして、そのオールアウト形式で得られる強い刺激が特に末梢(筋)に効果をもたらすと考えられています。
したがって、この論文だけを読み、SITよりHIITの方が良いという理解は短絡的です。
また、トレーニング中の生理学応答を見る限り、HIITも刺激としてはやや弱い傾向も感じられます。

こうやって記すと、この論文を否定的に捉えているように映りますが、こういったトレーニング実験は、研究者、被験者ともに多大なる努力を強いられます。
また、トレーニング実験の一つの結果をダイレクトに活かせることはほとんどない一方で、こういったエビデンスを活かしていかない限り、科学的なトレーニングを行うことも不可能です。
したがって、一つひとつの研究の限界を認識した上で、得られたエビデンスをもとに考察することが大切です。

MAODが短時間レスト・HITでのみ高まった結果は、無酸素性パフォーマンスを高めるには、酸素借のトータルの利用量よりも、一度でも使い切ることが大切なことを示唆しています。
そして、この結果は、本家Tabata protocolのトレーニング実験の結果とも一致しています。

まとめ

長距離走パフォーマンスの改善にはロングインターバルが有効